子どもの自殺者が相次ぎ、深刻の度合いを深めるいじめ問題。被害者と加害者の対応に追われがちだが、傍観していた第三者の子どもたちも心の傷を負っている。「何もしてあげられなかった」と、自責の念にさいなまれ、うなだれる子どもたち。「そうした子にも心のケアを」と専門家は指摘する。
東京都精神医学総合研究所(東京都世田谷区)の猪子(いのこ)香代副参事研究員は、児童心理専門誌に、いじめに関する子どもたちのストレスについて寄稿した。
猪子研究員の臨床体験では「最近元気がない」「頭痛がひどい」などと親に連れられて来る子の中に、「いじめにさらされた体験」が潜んでいる事例があるという。
いじめを傍観して、強まる無力感▽無秩序状態に置かれたストレス▽力になってあげられなかったという自責の念・自己評価の低下などで、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥る子どもがいる。猪子研究員は「親に『しっかりしなさい。あなたは何もしていないんだから』と言われても気に病んでしまう子はいる。私は『それはひどいわね』としっかり共感してあげるようにしています」と話す。
学校教育専門誌で「事件・事故後の教室」について連載中の小沢美代子・千葉大大学院教授(教育臨床学)も11月号で問題に触れた。
小沢教授は「いじめられる子どもの苦痛はもちろんだが、いじめの場にさらされているクラスの子どもたちの心も同時に傷付いている」と指摘。「いじめられている同級生への同情や助けられないことへの罪悪感、無力感に悩まされており、こうした子へのサポートも忘れてはならない。困っている場面を見た時には、大人に伝えることは告げ口ではなく、勇気ある行動だということをきちんと説明する必要がある」と話している。【竹中拓実、堀文彦】
毎日新聞 2006年11月18日