下りの東海道新幹線が京都駅に近づくと、左手先に東寺の五重の塔が見えてくる。東寺は唐の都、長安に渡り、密教を学んだ空海ゆかりの東寺真言宗の総本山である。
4月13日、中国の温家宝首相も東京から移動の車中、塔に視線を向けるかもしれない。
やはり、と思う。温首相は滞日3日間ながら、京都へ行く。日中交流史が詰まる古都こそ訪問先にふさわしい。両国ともそう考えたはずだ。
1000年を超える昔だけではない。洛西・嵐山。桂川河畔に初代首相、周恩来が詠んだ詩碑「雨中嵐山」が建つ。温首相も足を運ぶ。
瀟瀟雨 霧濛濃 一線陽光穿雲出 愈見●(女偏に交)妍
(雨そぼ降り、霧深く立ち込める。やがて一筋の光が雲間から差し込み、眺めはさらに美しさを増す)
1919年4月5日、日本で2年弱を過ごした周青年は帰国前、嵐山を訪れた。当日の天候と将来に光明を見いだした心中を重ねた詩文は、偶然にも昨年来の日中関係に当てはまる。
「人民の宰相」周恩来は死後31年がたつ今も敬慕を集める。温氏は第6代首相として同じ職責にある。
温首相を日本が中国に売り込む新幹線に乗せ、迎える京都府・市の首長は選挙で自民党も推した。京都入りには安倍政権の計算が働く。一方の中国。反日機運がくすぶり、指導者は日本で笑顔ばかりを振りまけない。
それでも、この京都行きに注目したい。地味な温首相だが、東京での首脳会談より日中両国民へのメッセージは多いかもしれない。「さらに美しさを増す」前途を開くためにも。(中国総局)
毎日新聞 2007年3月22日 0時37分