藤沢周平原作の映画「山桜」(篠原哲雄監督)が全国公開されている。藤沢小説ではおなじみの海坂藩を舞台に、つらい再婚生活を送る磯村野江と、彼女にひそかに思いを寄せている手塚弥一郎を軸にした物語。時代劇映画は初主演の東山紀之が手塚を演じた。【岸桂子】
◇セリフ少ない分、心の中で“表現” 映画の面白さ再認識
弥一郎は正義感あふれる武士だ。飢饉(ききん)続きで窮乏する農民の姿に心を痛め、私腹を肥やす藩の重臣を許すまいと、城中で刃傷沙汰(にんじょうざた)におよぶ。
冒頭、野江(田中麗奈)と山桜の下で言葉を交わす場面以外、ほとんどセリフがない。心の揺れも固い決意も、表情と態度で表さなければならなかった。「セリフの少なさは、試写会で人から指摘されるまで意識していませんでした。心の中でいろいろ考え、しゃべっていたのかも」と振り返る。
「最初のシーンは、桜の力を借りて勇気を出し、野江に声をかける、という感じでした。でも、野江に対するときめきを抑えなければいけません。あとは、常に自己犠牲を考えていたと思うんです。獄中でも野江を思っているから、あんなに正々堂々としていられる」
殺陣も見せ場の一つ。ダンスを得意とするアイドルだが、ちょんまげ姿が本当によく似合う。
「(以前にテレビで演じた)浅野内匠頭もそうでしたが、人を殺すには、正義感以上の覚悟と狂気がいると感じます。ですから、殺陣の『型』にはまらない方がいいのでは、と僕の意見も言いました」
何でもセリフで説明してしまう邦画が目立つ中、異色ともいえる仕上がり。「ものすごく透明感のある物語。僕自身、この役にほれこみ、映画の面白さを再認識しました」と手応えをつかんだ様子だ。