STAP細胞の論文不正問題に揺れた理化学研究所の改革を担うため4月に就任した松本紘理事長は22日、理研本部(埼玉県和光市)で記者会見し、新たな経営方針を発表した。任期制の研究者が、雇用期間がより長く安定した定年制に移行できるようにし、研究意欲を高める。年度内をめどに新方針を具体化し、イノベーション創出につなげる。
今後の経営方針について記者会見する理研の松本理事長(22日、埼玉県和光市)
会見で松本理事長は「若手は(研究機関を)渡り歩かなければならない状況で、追い込まれている。理研も役立たなければならない」と強調した。
理研は若手を中心に5年程度の任期制職員が多く、研究部門は88%超を占める。任期制は人材の固定化を避けられる半面、短期的な成果を求める傾向が強くなる。次のポストを探すのに手間がとられ研究活動の妨げにもなっているという。
研究センターごとに職員の定年制や任期制の比率が異なっている現状も踏まえ、松本理事長は人事制度を一本化し、優れた研究者が定年制に移行できる仕組みを導入する方針を示した。研究業績だけでなくプロジェクトの企画や運用能力が高い人材が理研に残れる道もつくる。
理研の新経営方針のポイント |
○研究者が任期制から定年制に移れる制度をつくる |
○優秀な若手研究者を育成するプログラムをつくる |
○国内外の大学・企業・研究機関と連携を進める |
○研究支援者を充実したり、英語を公用語にしたりして国際標準の研究環境を整備 |
○理事長の裁量経費を利用した機動的な研究を進める |
人材育成プログラムとしては、国内外から若手を募り自由な環境で研究してもらう制度を検討。20~30人規模で今年度中にも始めたい考えだ。
実験などを支援する人材の拡充や所内の公用語を英語にする考えも明示した。海外から優秀な研究者を招きやすくし、イノベーション創出に向け、国内外の研究機関や企業との連携も強める。
若手のポストをめぐる問題は他の機関にも共通する課題だ。松本理事長は「よいモデルといわれるものを構築したい」と意欲を示した。
国を代表する研究機関である理研は、STAP騒動で信頼が失墜した。松本理事長は、3月末に退任した野依良治前理事長に代わり、京都大学学長時代に若手登用やiPS細胞研究所設立などで実績を上げたリーダーシップが期待されている。
ただ、理研の今年度予算は決まっており、新方針をすぐに導入するのは難しい。制度設計や規模、導入時期は今後、検討を進めるが、松本理事長は「(人事制度などは)1年以内に方向性を出したい」と語った。