内閣府が8日発表した1~3月期の国内総生産(GDP)改定値は年率換算で3.9%増となり1年ぶりの高さとなった。国内設備投資が前期比2.7%増と5月発表の速報値(0.4%増)を上回ったのが主因だ。好調な企業収益を背景に古い設備の更新投資が増えている。ただ、人口減に伴い内需は縮小傾向だ。設備投資主導の成長シナリオは見通しにくい。
「企業の設備投資の意欲が積極的になった」。菅義偉官房長官は8日午前の記者会見で景気の持ち直しが進んでいるとの認識を示した。今年1~3月期の成長率は消費増税前の駆け込み需要が成長率を大幅にかさ上げした14年1~3月期(4.4%)に次ぐ。
GDP改定値では設備投資関連のデータの上方修正が相次いだ。5月20日発表の速報値では「1~3月は4四半期ぶりに増加した」だったが、改定値では「3四半期連続の増加」に、14年度の設備投資も「前年度比0.5%減」から「0.4%増」にそれぞれ修正された。
■リストラ一巡
回復を象徴するのはリストラが一巡した電機業界だ。「新規投資について、まず日本でできないか考える」。内外で前年度比25%増の2850億円を投資するパナソニック。津賀一宏社長は日本から輸出できる製品は国内の設備投資を優先する考えだ。
日本企業が保有する国内設備の平均年齢は1995年には10年だったが、足元では15年を超している。景気の長期低迷に人口減に伴う内需縮小が加わり、国内の設備更新を見送ってきたためだ。だが企業収益の回復と円安基調の持続を背景に、競争力の衰えた国内設備の更新に動く企業が増えている。
1.9%増の1兆2000億円を内外で投資するトヨタ自動車。海外で自動車の組み立て工場の新設を再開する一方、国内の既存工場を改修する。部品の共通化などを柱とする新たな設計手法「TNGA」の導入で生産性を高める。
■非製造業に拡大
設備投資を増やす動きは、製造業以外にも裾野が広がっている。訪日外国人の増加をにらみ、前年度比81%増の3200億円を投資する三菱地所は東京・丸の内地区やJR名古屋駅前の再開発を進める。東海旅客鉄道(JR東海)も27年の開業を目指すリニア中央新幹線の土木工事を本格的に進める。
セブン&アイ・ホールディングスは、景気の持ち直しを受けた国内消費の回復をにらみ、システム投資を増やす。10月にコンビニエンスストアや百貨店、スーパーの実店舗とネット通販を融合するシステムを本格稼働する計画だ。
財務省の法人企業統計によると設備投資額は減価償却費を上回る水準で推移している。デフレ下の景気低迷期には設備投資を最小限に抑え現金を積み上げる企業が増えたが、こうした縮み志向は脱しつつある。
ただ、設備投資の回復が景気をけん引するような力強さを持てるかは微妙だ。先行指標となる4~6月期の機械受注の見通しは、前期比7.4%減だった。
足元の景況感もややふらついている。内閣府が8日発表した5月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、景気実感を示す現状判断指数は前月と比べ0.3ポイント低下し53.3となった。6カ月ぶりの悪化だ。円安による原材料費の増加を懸念する企業部門の悪化が響いた。
企業の設備投資は、経営者の長期的な見通しと、足元の景気動向の両方に左右される。収益の回復が進むなかで企業経営者は潤沢な資金を少しずつ投資に回し始めた。だが、国内で大幅な設備増強に投資するかはまだ迷いが残っている局面といえそうだ。