「まだまだ勝手に関西遺産」
奈良市の土産物屋で、昔からよく見かける「ビニール鹿」。実は半世紀以上前から売られ続けている、奈良土産の定番商品です。国民的映画「男はつらいよ」シリーズ第1作にも登場しています。
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修学旅行で奈良市を訪れたのは、もう25年以上も前のこと。あの当時から、土産物屋の軒先には、空気を入れて膨らませるカラフルな「ビニール鹿」が並んでいた記憶がある。足に車輪が付いていて、ひもで引っ張ると鹿を連れて散歩しているように見える、いかにも奈良らしいおもちゃだ。
今でも、その光景は変わらない。東大寺の参道で100年以上前から土産物屋を開く「遊鹿(ゆうか)」では、ショーウィンドーに赤、青、ピンクの3色のビニール鹿(税抜き千円)を飾っている。4代目の芳川友昭社長(59)は「物心ついた時には、もう店にあった」。意識して店先に並べているわけではないが、「見た瞬間に奈良とわかるので、昔からなんとなく置いている」と話す。
別のお土産屋の店長(54)も「売れなかったら、後ろに下げるだけ。一番ではないが、それなりに売れるから目立つ場所に置いている」と明かす。近年急増している外国人観光客は見向きもしないが、「昔買ってもらったという大人が、懐かしがって子や孫に買ってあげる、というケースが多い」という。
映画「男はつらいよ」のシリーズ第1作(1969年)には、旅に出た寅さんが、奈良で出会ったマドンナにビニール鹿をプレゼントするシーンもあるなど、長く愛され続けている。一体、いつ誕生したのだろう。
「正確にいつからかはわかりませんが、1957、58年ごろには作られ始めたようです」
現在、ビニール鹿を土産物店に卸している唯一の会社で、観光土産品製造卸業「杉森物産」(奈良市)の杉森憲二社長(69)は話す。確かに58年11月3日の朝日新聞夕刊には、ビニール鹿らしきものが奈良・若草山の土産物屋の軒先にぶら下がっている写真が載っている。
もともと、大阪府池田市にあった会社が奈良市の土産物屋と一緒に考案したといい、当初は車輪はなく、茶色のみ。大きさも、現在(高さ約50センチ)より一回り小さかったようだ。
しばらくして杉森物産が卸元を…