20日、神宮第二球場(東京)であった全国高校野球選手権大会の東東京大会5回戦。実践学園の野球部長、脇野浩平さん(29)はベンチ前で試合を見守った。ベスト8進出はかなわなかったが、選手たちに「今まで苦しいことを乗り越えてきた。これからの人生に生かしていってほしい」と声をかけた。
命の価値とはなにか
重い障害のある入所者19人の命が奪われた「やまゆり園事件」から2年。「障害者は不幸を作ることしかできない」。命を選別する植松聖被告の言葉は、社会に暗い衝撃を与えた。命の価値とはなにか。障害者の「きょうだい」として生きる人の目を通して考えてみたい。
元球児の脇野さんは11年前、青森の強豪、青森山田の選手として甲子園で報徳学園(兵庫)と対戦。先制打を放った。大好きな「隼(じゅん)くん」の分まで活躍したい、と目指した場所だった。
兄の隼さん(31)は生後まもない頃に寝たきりになった。左手は自分で動かせるが、目も見えず、会話もできない。いつもそばにいた脇野さんは、小さい頃から介助という意識もなく隼さんの手助けをしてきた。ごはんを食べさせ、おむつを替え、家族でお風呂に入れた。休みの日には隼さんを車いすに乗せ、父と散歩に出かけた。
幼なじみも隼さんを自然に受け入れていたが、小学生になってできた友達の反応は違った。自宅に遊びにきた友達が、リビングにいる隼さんを見た途端、ぴたっと動きを止めた。「これ、何?」とでも言いたそうな友達の姿を、20年がたった今でも覚えている。
初めて「障害がある兄」を人に見られたくないと思った。大好きなのに、存在を隠すようになった。「きょうだいは?」と聞かれ、「妹と2人」とうそをついたこともある。「なんで隠す必要があるんだろう」と自問自答した。
野球で隼さんを甲子園に連れて…