中国企業によるドイツのハイテク企業の買収に対し、独政府が懸念を示していた問題で、中国企業が買収案を取り下げたことが1日、明らかになった。安全保障の確保や技術流出を防止するため、独政府が事実上買収を阻止した格好で、今後議論を呼びそうだ。
買収の対象になっていたのは、独西部アーレンにある工作機械メーカー「ライフェルト・メタル・スピニング」。宇宙船や原発に使われる特殊な金属の製造技術を持っており、その技術は米航空宇宙局(NASA)でも使われている。工業技術の研究を手がける中国企業「煙台市台海集団」が買収を検討していた。
独政府は昨年、対外経済法施行令を改正。欧州連合(EU)や欧州自由貿易連合(EFTA)以外の外国企業が、重要なインフラ産業などに対して25%以上を出資する場合、政府への報告を義務づけ、審査を受ける必要があると定めた。
政府は1日の閣議で初めて却下を決める見通しだったが、中国企業側が「正面衝突」を避けるため、直前になって申請を取り下げたとみられる。政府関係者は朝日新聞の取材に「閣議では、取り下げの手続きに不備があった場合でも、買収を却下する権限を経済省に与えた」と明らかにした。
産業の高度化を狙う中国は独企業への投資を急速に拡大。会計事務所アーンスト・アンド・ヤングによると、2017年の投資額は15年の25倍以上に膨らんだ。目立つのは宇宙航空やロボット工学など、中国政府が15年に発表した産業政策「中国製造2025」に掲げられた分野で、25年までに世界の製造強国の仲間入りを目指している。
一方、16年に中国の家電大手「美的集団」が独のロボットメーカー「クーカ」の買収を発表して以来、独国内では技術流出に対する懸念が高まり、EU内でも規制強化の動きが広がり始めている。(ベルリン=高野弦、上海=福田直之)