新潟県・黒崎弘明さん(85)
陸上を始めて知った。やればできる。
5歳刻みの年齢別で競うマスターズ陸上に、82歳だった2015年に初出場。今年5月、前橋市であった春季大会の男子85~89歳砲丸投げで、日本記録を上回る9メートル91を出した。
柏崎市笠島の海辺で生まれ育ち、地元の自動車部品メーカーに40年以上勤めた。20代の頃は相撲部に入り、趣味で潜水を楽しんだが、本格的な運動経験はなかった。
数年前、中学生だった孫の陸上大会を応援していたところ、無性に走ってみたくなった。折しもがんで胃を部分切除し、体重が5キロ減。「体が軽くなった」。チャンスに思えた。
最初に出たのは新潟市の大会。ウェアがなく、海水パンツをはいて走った。100メートル17秒28を出し、いきなり大会新記録に。「やればできるんだ。もっと早くやっておけば」。魅力にとりつかれた。
毎朝、起伏の激しい近所の道を走った。新しい挑戦をしようと3キロの砲丸を買い込み、近くの山や畑で投げ始めた。動画サイトを参考に、投げる前に回転したり、助走をつけたり。試行錯誤の末、右足のバネと手首の返しを重視する独自のフォームを編み出した。昨年からは毎日300回砲丸を上下する運動も始め、記録を伸ばしてきた。
好きな言葉は松下幸之助の「青春とは心の若さ」。砲丸投げ10メートルの目標に向け、9月の全日本大会にも出場する予定だ。「年を取っても成長できた。こんなにおもしろいことはない。体が動く限り続けたい」(高浜行人)