中央アジアのカザフスタンとウズベキスタンにまたがる塩湖「アラル海」。かつて、日本の東北地方とほぼ同じ湖面積があった世界第4位の大湖は、旧ソ連時代の無計画な灌漑(かんがい)農業の結果、半世紀で10分の1に干上がった。水が残る西部の湖岸は、外国人観光客にも人気の観光地になっていた。
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湖西部の崖の上に、三角屋根の丸いテントが九つ並んでいた。遊牧民が伝統的に使ってきた「ユルタ」と呼ばれるテントだ。木製の棒を円形に何本も立て、白い布をかけてつくる。赤や黄、青色の鮮やかな織物の飾りも付く。
ウズベキスタンのアクトゥムシクと呼ばれるこの地域で、旅行会社が観光客向けのキャンプツアーを行っている。当初は一般的なテントを持参してそのつど設営していたが、昨年4月、常設のユルタキャンプが登場した。
ここにたどり着くには、100キロ以上離れたムイナク市からツアー会社の四輪駆動車に乗って、干上がった湖底を走ってこなければならない。人工物はユルタのあるキャンプ場と甲殻類アルテミアをとるための施設以外、見渡す限り見当たらない。秘境と言ってもいい場所だが、毎日、海外からも観光客が訪れる。
早朝、日の出で空と湖面がピンク色に染まる。夜の闇の中で、赤い月が湖面に姿を映す。星は数え切れないほど瞬いている。周囲にある険しい谷や草原も魅力だ。
妻と2人の幼子と4人で暮らすキャンプの管理人(49)は「ここの自然が気に入っているよ」と満足げだった。(神田明美)