岐阜県八百津町に移住したデザイナーが、地元小学校の全校児童を等身大で壁画に描いた。作品の場所は日用品を売る地元の商店の壁。「『柱の傷』のように、時間がたってもこの時の自分に会えるように」と制作した。
壁画の大きさは高さ約6メートル、幅約7メートル。八百津町久田見(くたみ)の商店「松野屋」の壁面に描いたのは、2016年4月に同町福地に移住した北野玲さん(62)だ。
北野さんはフリーのデザイナー。岐阜県美濃加茂市を走るコミュニティーバスで、車両デザインが採用されたこともある。壁画は今年3月に松野屋から「殺風景な壁に何か絵を」と依頼されたのが始まりだった。
北野さんは「地域が誇りとし、喜んでもらえるものを」と、久田見祭りの山車と久田見小学校の全校児童を描くことを考えついた。学校の協力を得て、全校児童35人の写真や身長、それぞれの児童が好きなもののデータをもらい、絵に反映させた。
野球が好きな子は手にグラブをはめた。犬やフクロウや恐竜など、それぞれの子が好きな生き物も登場させた。進学や就職で故郷を離れても、ここに来れば、18年4月の自分に会えるように、との思いを込めた。「いわば『柱の傷』のイラスト版です」と北野さん。頭上には地元の山車が描かれ、縁起のいい鳳凰(ほうおう)が舞っている。
制作で苦労したのは突風や夕立、梅雨、そして猛暑。朝7時前から正午まで天気に左右される作業を続けた。これまで手がけた中で最大の作品で、完成までの約4カ月、家族と見に訪れる子どもたちも多かった。「照れくさいくらいべた褒めしてもらった」という。
今月4日、壁画の前で完成披露会が開かれた。孫2人が描かれた鈴村由美子さん(72)は「孫たちが高校、大学となった時にまた見られたらいいなと思います」と笑顔で眺めていた。
華やかになった壁を前に「訪れた人が写真を撮りたくなるような場所になれば」と松野屋のご主人。北野さんも「感無量です。多少は色も変わるでしょうが、一生かけてケアしていこうと思います」。(吉本美奈子)