のどのけいれんで声が出なくなる病気から、患者を救う。その世界初の医療機器を、福井県鯖江市にある従業員20人の町工場がつくった。革新的な製品を優先的に審査する、国の「先駆け審査指定制度」が適用され、第一号のスピード承認を受けた。大企業にも劣らない技術力を培ったのは、地場のめがね産業だ。
1942年創業の「若吉製作所」がつくった医療機器は、「チタンブリッジ」。声帯が意思に反して閉じてしまい、声が出ない患者に取り付け、適度に開いた状態で支える「橋」の役割を果たす。
鉄工所として創業後、48年にめがねの部品製造を始めた。軽くて丈夫なチタンを使ったちょうつがいをつくり、緩みにくい金具を考案し、特許もとった。
だが、次第にめがねの製造拠点は人件費の安い海外へシフトした。鯖江市商工政策課によると、市内のめがね産業の出荷額は92年度の約1145億円をピークに、2015年度は約479億円と減少傾向に。国内で製造する部品の需要は先細りになった。
チタンの特徴に着目
そこで、ほかの金属よりもアレルギーを起こしにくいとされるなど、チタンの「人体に優しい」特徴に着目。04年、医療機器製造の承認を国から受け、手術用具や歯科用のドリルなどの製造を柱とする事業転換を図った。
チタンブリッジを開発するきっかけは、突然訪れた。若吉修似(しゅうじ)社長(66)は「10年ほど前に京都大の先生から、いきなり電話がかかってきた」と振り返る。
電話の主は一色信彦・京大名誉…