ヒトのiPS細胞を使って、血液中のたんぱく質が尿に大量に漏れる腎臓の難病「先天性ネフローゼ症候群」の初期状態を再現することに、熊本大発生医学研究所などの研究グループが成功した。腎臓の機能をつかさどる細胞の異常が、遺伝子操作で正常化することも確かめた。発病の仕組みの解明と治療法開発につながる可能性があるという。
米科学誌ステム・セル・リポーツ(電子版)に31日掲載される。
先天性ネフローゼ症候群は、腎臓の中で血液から尿をこし取る細胞の濾過(ろか)膜が十分形成されていないために起こる。熊大の西中村隆一教授らのグループは、患者の皮膚からつくったiPS細胞で腎臓の組織を作製し、濾過膜の形成が進まない状態を初めて再現した。
この患者は、濾過膜を構成する主要なたんぱく質「ネフリン」の一部に異常があるが、細胞の遺伝子操作で修復したところ、濾過膜の形成が進んだ。このため、ネフリンの異常が病気の原因であると特定できた。
先天性ネフローゼ症候群は根治が難しく、2~3年で腎不全になることが多い。濾過膜の人工的な再現方法がないことが研究の課題だった。熊大によると、小児のネフローゼ症候群患者のうち2%程度は先天性とみられ、全国で100人弱の患者がいると推定される。濾過膜の障害は、成人の腎臓病との関連も指摘されており、研究グループは、治療法の開発や創薬につながる可能性があるとしている。(田中久稔)