名古屋城の木造新天守にエレベーターを設けないとする名古屋市の決定に、障害者団体が強く反対している。この問題について、エレベーター不設置を決めた河村たかし市長の考えを改めて聞いてみた。
【特集】名古屋城
――名古屋城天守木造化とエレベーター(EV)についての考えを改めて聞かせてください。
「コンクリート製の現天守は耐震性が低く、長く放ってはおけない。耐震改修するか、木造復元して耐震性を確保するかだ。木造復元を市長選で主張して当選し、市議会にも可決していただいた」
「本物の城にEVはない。歴史に重要なのは、先人が造ったものを次の世代に引き継ぐこと。詳細な実測図がそろっていて、忠実な復元は使命だ」
――一時はEV設置を検討していました。
「4人乗りだと車いすの人と介護者が一緒に入れず、11人乗りだと柱や梁(はり)を史実から大幅に変えないといかん。忠実に復元するという任務からすると、ちょっとまずいとなった」
――不設置の決定に障害者団体が反発しています。
「誤解がある。まず今の天守がバリアフリーだと言う人がいるが、5階までで(最上部の)7階へは上がれない。新天守は建築基準法の適用除外を受けてまでして行う『復元』だ。基本的部分を復元した建物はEVを付けないものだ。復元された沖縄の首里城でもEVは別棟にあり、『本物性』を損なうものではない」
「EVを付けると本物性がなくなり、誰も感動しない。どうしたら車いすの人が本物の城の最上階に上がれるか。そう考えるのが優しい心だと思う。本物性を傷つけない新技術を開発するため、多くの研究開発会社に電話し、市長室に来てもらった。『作れる』と言う社長もいるし、近く国際コンペもする」
――木造新天守が完成予定の2022年末までに実現できますか。
「4年もあるから、できるでしょう。かごや背負子(しょいこ)のような乗り物で運ぶ発想は有力だ。電動車いすは200キロあるから工夫せなあかんけれど、スタッフが2、3人いて案内できるし、災害時はみんなで避難できる」
――担がれるのは怖いし、恥ずかしいという声があります。また、体幹が弱い人は乗り物の揺れを恐れています。
「恥ずかしいなら、すだれでもかければいい。センサー技術がものすごく発達し、安定するよう努力するという技術者もいる。国際コンペをし、挑戦した方が、はるかに体が不自由な人にチャンスを与える」
――障害者団体は「人権侵害」とも訴えています。
「よく分からない。こちらが人権を守っている方だ。障害者の皆さんが江戸時代の城に上がるにはどうしたらいいか。その前提で、まずは本物の城を造らないと。どうやって上がるかはそれから考えていく」
――新技術の何がEVより優れているのでしょう。
「本物性が残り、千年後の人が喜ぶ。本物を残しておいた方が、どれだけ後世の人のためになるかということだ」
――障害者団体にどう理解してもらいますか。
「みんなが反対しているわけではない。『息子は車いすだけど、本物を造ってください』という声も届いている。どんどん新しい技術が出てくれば、『やっぱりこの方がいい』となるんじゃないか。こつこつと誠実に説明していく」
(聞き手・関謙次)
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河村市長のほか4人の有識者・関係者のインタビューは、「マイタウン愛知」(
http://t.asahi.com/tk0s
)で読むことができます。(関謙次)