奈良市の旧市街地「ならまち」の路地裏にある古民家にこのほど、無人書店「ふうせんかずら」がオープンした。店の公募に応じた愛書家が年間契約で書棚のオーナーになり、厳選した個性的な本を並べている。
利用者はホームページ(
http://narabook.space/
)から無料登録し、入店に必要なID(6桁の数字)をもらう。記者も登録し、9月初旬に店を訪ねた。電子キーのボタンで数字を入力して扉を開けると、5メートル四方ほどの空間に12の書棚がひしめいていた。外国文学が並ぶ棚、演劇や映画関係の本が並ぶ棚……。約2千冊の多くは古本だ。
オーナーの書棚が八つ、奈良関連の本や同店が委託販売を請け負う書棚が四つある。オーナーは奈良、大阪、兵庫、東京に住む8人。ネット公募に応じた37人から選ばれた20~40代の男女だ。うち7人が自ら店を訪れて書棚に本を並べた。本の多くは古書。オーナーが特定の分野にこだわって集めたものだ。
利用者は本を選び、無人レジで備え付けのタブレットに金額を入力。カード決済し、あとは本に挟んであった伝票を箱に入れるだけ。
友人と訪れた京都府木津川市の公務員、倉阪英恵(はなえ)さん(43)は、棚に見入ったり、椅子に座って本を読んだりしながら約2時間過ごした。「時間を忘れてしまいました。なかなか普通には手に入らない奥深い本が多い」。この日は旅行関係の本などが豊富な棚から、北米先住民族の生活をまとめたムック本や世界の居酒屋に関する本を買った。
この書店を企画した人材教育コンサルタントの平田幸一さん(57)によると、8月10日の開店時で約100人いた登録者は、1カ月で約400人に増えた。
平田さんは2013年、長く暮らした東京から、子ども時代を過ごした奈良県に戻り、ならまちの町家に移り住んだ。15年秋から書店経営者や本好きの仲間と奈良市内で本の見本市などを開いてきた。「もっと継続的に本好きが集える場所を作りたい」と考え、思いついたのが「無人、キャッシュレスの書店」だった。
ノウハウは身近にあった。映画…