野良ニワトリが集団でうろついているとの情報が寄せられ、高知県中土佐町久礼に向かった。四万十町との境にある七子峠へ向け、つづら折りに国道56号の久礼坂をぐんぐん進むと、久礼坂大橋付近から「コケコッコー」と甲高い声が響いてきた。
濃い緑に覆われた道路脇の空き地にニワトリたちはいた。15羽ほどはいるだろうか。近づくとこちらを警戒してか、山肌や木の枝へ走り去って鈴なりになってこちらを見ている。一帯は山間を貫く国道の峠道で付近に民家はない。
なぜこんなところにニワトリの大群がいるの?
「1年ほど前からでしょうか。数羽いるなあ、誰かが捨てたのかなあ、という感じで眺めてはいたのですが」。案内してくれた中土佐町役場の小松賢介さんも首をかしげる。
小松さんや地元の人によると、ニワトリがすみ着いている場所は久礼坂の道路沿いにある休憩できる駐車スペースだ。10年ほど前から時々、ニワトリや猫などが捨てられることがあった。だがこの1年でニワトリが急増しているという。
農家では庭先でニワトリを飼育し、老いたニワトリは絞めて食べることもかつては多かった。小松さんは「最近は絞めた経験がない若い世代も多く、殺すのを嫌がって捨ててしまうのでは」と推測する。
餌をやる近隣住民もおり、「名所」になっている。写真を撮っていると、町内に住む女性3人が寄ってきてボウルに入れた米粒や水を与え始めた。女性の一人は「心配でつい見に来てしまう。餌は毎日換えに来ています」。他の女性は「昔やったら、捨てられた端から誰かに持っていかれてしもうたがよ。絞めて食べるが普通やったき」と話す。
住民の心配をよそに、ニワトリたちは山肌でミミズやコオロギをついばむなど「自活」に余念がない。次第に人影に慣れてきたのか、木の枝から飛び降り、空き地を闊歩(かっぽ)する姿も見られた。
「厳密に言うと『不法投棄』になりますが、見守る人もいて、害もない。温かい目で見守っていただきたいが、どうかこれ以上は捨てないで」と小松さんは話していた。(堀内要明)