日雇い労働者の街、大阪市西成区の釜ケ崎。高度経済成長期に集まった労働者の高齢化や、家族との縁を切られたり生活に窮し行き場をなくしたりした単身者などの姿が目立つ。そんな街に6年前、市民大学「釜ケ崎芸術大学」(釜芸)が開講した。詩や俳句、哲学などの文化人を呼んで学ぶ場を提供。「アート」を通じて、人とつながり、生きがいを見いだす場が広がりつつある。
釜ケ崎にある4畳ほどの部屋で、霧野由多加(きりのゆたか)さん(74)=仮名=は、作りためた作品を広げた。25歳の時に独学で貼り絵を始め、人や動物、花などを色紙でカラフルに表現する。
無一文で釜ケ崎に来たのは22年前。30代で妻を亡くし、一人娘とも別れ、各地で日雇いや新聞販売員などをした。ギャンブルと酒におぼれ、気がつけばアルコール依存症となっていた。悶々(もんもん)とした生活の中、ふとしたきっかけで釜芸の前身のワークショップに参加。詩作や狂言に没頭するうち、表現することの喜びに再び目覚めた。今年2月には、知人と共同で貼り絵の作品を展覧会にも出品した。「作品を作っていると嫌なことも忘れて純粋に楽しめる」。酒の量も自然と減っていった。
釜芸を運営するNPO法人「こえとことばとこころの部屋」(ココルーム)の代表、上田假奈代(かなよ)さん(48)は「釜ケ崎には、大切な人を失ったり、挫折を経験したりしたことで、孤立し後ろ向きに暮らす人たちも多い。そういう人が表現を通して心を開き、お互いを認め合うことで、自分の人生を肯定し、幸せを感じることができる。その姿は我々の励みにもなる」。(写真・文 小林一茂)