国連のグテーレス事務総長は25日午前(日本時間同日深夜)、国連総会で演説し、「戦略的な協力と、競合する利益の管理に努める指導力があれば、戦争を避け、世界をより安全な方向に導ける」と呼びかけた。国名は挙げなかったが、米国のトランプ大統領と中国の習近平(シーチンピン)国家主席に向け、大国の責務を果たすようメッセージを送った形だ。
一般討論演説の開始に先立ち、グテーレス氏は、世界の多極化そのものは「平和を保障せず、グローバルな問題を解決しない」と述べ、勢力の均衡に変化が起きている現状を「対立の危険が高まりかねない」と指摘した。
また、歴史家トゥキディデスが古代ギリシャで起きた戦争について、「新興国アテネの台頭がそれまでの覇権国スパルタに与えた恐怖(不安)により、戦争が避けられなかった」と述べたと言及。この指摘を、米ハーバード大教授が「トゥキディデスのわな」と呼び、「戦争が不可避だったことはない」と結論づけたことを紹介して大国のリーダーシップの重要性を訴えた。同教授の著書は米中の指導者に「トゥキディデスのわな」の危険を伝え、自制を求める内容で、グテーレス氏は事実上、米中トップに協調を訴えた。
また、グテーレス氏は「多国間主義がやり玉にあげられている」と懸念を表明し、世界の首脳らにも国際協調を訴えた。国内制度への信頼や国家間の信頼が弱まる中、各地で政界エスタブリッシュメント(既得権益層)が信用されなくなり、「分極化が進み、ポピュリズムが進展中」とも指摘。世界の秩序が混迷して、普遍的な価値もむしばまれ、民主主義の原則や法の支配が「弱まっている」と警告を発した。(ニューヨーク=金成隆一)