焼夷(しょうい)弾に焼かれ、泣き叫び裸で逃げる9歳の少女――。1972年、ベトナムの旧サイゴン(現ホーチミン)郊外で撮影された「ナパーム弾の少女」は、ベトナム戦争の惨禍を世界に伝え、反戦のうねりを生んだ有名なピュリツァー賞受賞写真だ。
被写体の「少女」キム・フックさん(55)と、撮影した元AP通信のニック・ウトさん(67)に私が初めて会ったのは米ロサンゼルス支局長だった2012年。ウトさんも当時、APのロサンゼルス支局にいた。現地記者の集まりで彼と知り合ったことから、キム・フックさんと二人三脚での講演活動を取材した。
やけどの痕が広がる背中や腕はずっと痛む。それでも彼女は恨みや怒りを乗り越え、戦争にかかわった人たちをゆるし、戦争の悲惨さを説いた。ベトナム生まれのウトさんは撮影するや彼女を病院へ運び、以来、支え続けた。そんな2人の記事を同年7月の本紙国際面に書いた。
私には心残りがあった。彼女は自由を求めてカナダに亡命し、トロントに住んでいた。何があったのか知りたい。この夏、トロントへ飛んだ。
待ち合わせ場所に現れた彼女は…