生まれは大阪。地元はミナミの「スーパー玉出」の辺り――。大阪出身の歌舞伎俳優2人がこの10月、いよいよ“ご当地”での襲名披露公演にのぞむ。上方発祥の名跡を昨年襲名した二代目市川斉入(さいにゅう)と、三代目市川右団次だ。公演には市川海老蔵、市川猿之助も出演するほか、右団次の8歳の長男右近も宙乗りに挑む。
上方歌舞伎を牽引(けんいん)した初代右団次のひ孫斉入と、小学生まで「大阪市中央区高津の今は『スーパー玉出』の辺り」で育ったという右団次。先月、大阪・道頓堀であったおねりでは、「初心に立ち返って一から勉強し直すつもり」(斉入)、「故郷に錦を飾れるように精進する」(右団次)と、それぞれあいさつした。
右団次は「屋号や名前が変わっても、僕の中にあるのは三代目猿之助」と語る。市川猿翁(えんおう)(三代目市川猿之助)の部屋子として出発しただけあり、襲名披露狂言は猿之助一門の澤瀉(おもだか)屋ゆかりの演目となった。
夜の部は、近松門左衛門の浄瑠璃を猿翁が復活させた通し狂言「雙生(ふたご)隅田川」を上演。右団次と長男右近、当代猿之助の3人宙乗りや、本物の水を使った鯉(こい)との格闘シーンもある。代々の右団次が得意とするケレンが詰まった演目に、「襲名のためにつくってくれたんじゃないかと勘違いするくらい、右団次の要素が入っている」と語る。
昨年、この演目で初舞台を踏んだ右近は大阪初お目見え。立ち回り、宙乗り、二役早変わりと、8歳ながら多くの見せ場が待つ。
昼の部は「華果(かか)西遊記」。おなじみの冒険物語を猿翁流にアレンジした演目だ。右団次は今回の襲名で屋号が澤瀉屋から高嶋屋に変わったが、「高嶋屋の右団次が澤瀉屋の演目をやることで、この演目が広く上演されるようになれば有意義なこと」と、狙いを説明する。
斉入は「雙生隅田川」で局(つぼね)長尾を演じ、昼は海老蔵主演の「神明恵(かみのめぐみ)和合(わごうの)取組(とりくみ) め組の喧嘩(けんか)」に茶屋の女房役で出る。師である十二代目市川団十郎に「色々できるようになったんだから、全部捨ててしまえ」と言われたという逸話を引き合いに、「オリジナリティーを出せと言ってくれたんだと思う。それを胸にやっていきたい」と語った。
昼の部はほかに、海老蔵の新作舞踊「玉屋清吉」、坂田藤十郎ら幹部俳優も出演する口上もある。
10月2~26日、大阪・道頓堀の大阪松竹座。1万9千~6千円。チケットホン松竹(0570・000・489)。(岡田慶子)