東日本大震災の被災地・岩手県陸前高田市で希少な二枚貝が復活し、出荷量を伸ばしている。一人の漁師が偶然見つけた稚貝を少しずつ増やし、全国唯一の大規模養殖地に育てあげた。津波で施設は大破したが、仲間と再建し、復興を支える高級貝に成長した。
野趣あふれる女川汁にまた会えた 復興は自転車に乗って
地元でエゾイシカゲガイの「生みの親」と言われるのが、漁師の小泉豊太郎さん(70)だ。元々、トリ貝を養殖していたが、二十数年前のある日、養殖カゴを引き揚げると、見たこともないクリーム色の稚貝が交じっていた。エゾイシカゲガイだった。トリ貝の養殖カゴで育て始め、試行錯誤の末、収穫量は3年目にして400キロに増えた。
浜の仲間に技術を伝え、生産者は13事業者に。2010年度には38トンを出荷するまで成長したが、津波でほぼすべての養殖施設が流された。
一度は再建をあきらめた。ただ、小泉さんは「始めた俺がやらねえわけにはいかねえべっちゃ」と奮い立ち、迷っていた仲間にも「海に出て復興させねば」と呼びかけた。12年春、再びカゴを設置。津波で海の環境が変わり、稚貝がとれるか分からない。その年の秋、カゴを引き揚げると親指の爪ほどの稚貝が顔をのぞかせていた。「これで仕事になる」と確信し、仲間の漁師に「イシカゲは大丈夫だからよ」と伝えた。
出荷再開は14年7月。すぐに…