金銀の楽器に桜や唐草模様が映える。楽器の修理・販売が本業のKAN(カン)ファクトリー(佐賀市天神2丁目)が扱うのは、有田焼・伊万里焼で作った小さな楽器のパーツ「音人(おと)」だ。2年ほど前から販売し始めると、専門誌にも取り上げられ、遠くは北海道からも注文があるという。
パーツは「フィンガーボタン」と呼ばれるもので、楽器を吹くとき、指で押さえる部分のこと。メーカー製の楽器には白い貝が使われていることが多い。演奏中にはほとんど見えないが、“オンリーワン”の楽器を求める演奏者に人気だという。
池田隆治社長(58)が焼き物でフィンガーボタンを作ろうとしたのは「思いつき」だった。窯元に直接交渉に行くと「できますよ」。ただ、陶磁器は焼くと縮むことが前提で、ボタンの枠にぴっちりとすき間なくはまるものを作るのは難しい。なので、あらかじめ大きく作って店で削ることにした。研削のために、修理で使っていた普通の工具ではなく、高価な機械を導入した。
できあがったボタンを知り合いのプロのトランペット奏者に使ってもらうと、見た目だけでなく、「音も良くなる」と言われたという。トランペットだけだった対応楽器も、金管楽器全般と木管楽器のサックスにまで広げた。さらに「ロータリーキャップ」と呼ばれる、ほかのパーツにつけられる音人も作った。
絵柄も徐々に増やし、今は30種類近くをそろえる。はじめはピンクの柄の「桜」が人気だったが、現在人気なのは深い青の「るり雫(しずく)」と、紺地に金の桜柄の「るり金桜」。一つから注文でき、複数の柄を組み合わせる人もいる。近々、古伊万里風の柄のものも加わる予定だ。オーダーメイドもできるという。
池田さんは「楽器のケースを開けたときにプレーヤーのモチベーションが上がれば。吹くのとは違う楽しみもあっていいのでは」。楽器用と同じ技術でつくったアクセサリーやタイピンも販売している。
メーカーや柄、仕上げによるが、トランペット用は一つ6千円、三つセットで1万5千円から。問い合わせはKANファクトリー(0952・97・8284)へ。(杉浦奈実)