その音は、時代の最先端のようでもあり、どこか懐かしさを呼び覚ますようでもある。パソコンを駆使した音楽制作で今、最も旬な音楽プロデューサーが、神戸出身/在住、平成生まれのtofubeats(トーフビーツ)さんだ。なぜ、神戸で音楽を作り続けるのか。海に囲まれたホテルのテラスで聞いた。
病院にディスコ 宇多丸、考え方の基盤はスター体質の父
1990年、神戸市西区生まれ。パソコンを使った音楽制作で10代から注目され、2013年にメジャーデビュー。クラブDJ、音楽プロデューサーとしても活動する。3日リリースのアルバム「RUN」は、映画「寝ても覚めても」の主題歌を収録。
――あ、船の汽笛が聞こえました
「この街のいいところです。三宮のセンター街でも聞こえますよね。仕事で東京と神戸を行ったり来たりですが、汽笛を聴くと帰ってきたな、と感じます」
――なぜ神戸在住にこだわるのですか
「故郷だというのが一番ですが、神戸で生まれ、育ったという生い立ちを大切にしたい。それが音楽を作る上で、重要な要素になればいいな、と」
――東京にいないことはハンディになりませんか
「インターネットの普及で情報格差は小さくなりました。それでも神戸に限らず、地方は様々な点で不利なのは確かです。でも僕は神戸で結果を残すことで、地方でも新しいものが作れる、と証明したい。地方がハンディだと認めて、僕が東京に行ったら、神戸の若者には無力感しか残らない。絶望してほしくないし、僕もしたくないです」
――1980年代、神戸は「地方の時代」のトップランナーでした
「『昔は良かった』と、音楽の先輩からもよく聞きます。正直、うらやましいとは思います。そんな時代に生まれてたら、とも。でも『昔は――』は、今現在に対して消極的な言葉ですよね。日本全体にも言えますが、持ってるものが減っていく中で、今あるものでどう頑張るかを考えたい、と思っています」
――今、あるもの?
「僕は神戸市の山側、西神ニュータウン出身です。特別に豊かな人も貧しい人もあまりいない、均質化した街。音楽活動をする上では、生い立ちに特別な背景をもっていた方が売り物になるのかもしれないが、『均質性が不利になる』という考えには納得できない。今、持ってるものからしか選べないのだから。ニュータウン育ちをいかに手札として使うか考えたい」
「僕にとって故郷の風景は、自然豊かな野山や人情味あふれる商店街ではなくて、ダイエーやブックオフ、ツタヤです。ショッピングモールやチェーン店の方が落ち着くんです。今、そんな世代が大人になり、ニュータウンは、テーマとして普遍性を持つ気がしています。特別さより、均質性がメリットになる時代が来るのではないかと」
――震災は、影響ありますか
「小学校の隣に仮設住宅があり…