黄ばんだ紙を明かりにかざすと、長さ5センチほどの繊維が泳いでいるのが見えた。薄く、驚くような透明感。「見たことがない」
オランダ人の手すき和紙作家のロギール・アウテンボーガルトさん(63)は40年近い昔の出会いを語った。母国で製本の仕事をしていた時のことだ。
和紙の魅力に引かれ、和紙作りを生業にした。2007年には、伝統技能の優れた継承者として県が認定する「土佐の匠(たくみ)」に外国人として初めて選ばれた。工房がある梼原町の山中は、鳥がさえずり、緑濃い。ロギールさんはコウゾや水が入った大きなバケツをかき混ぜながら、長年の和紙作りを振り返った。
1980年に来日し、全国各地の産地を回り、水が豊かで原料の栽培が盛んな高知県を修業の地として選んだ。いの町で土佐和紙の伝統技術を学び、92年には梼原町に移住した。
「和紙には無限の可能性がある」。和紙にほれ込む理由だ。生まれ育った欧州には、コットンなどをリサイクルして布から紙を作る伝統的な技術がある。その技術を和紙とミックスさせた「和蘭(わらん)紙」を生み出した。原料となるコットンや和紙の割合、すき方を変えれば、様々な色や模様の表現が可能になる。
都市部から遠く離れた山間部の梼原町で和紙づくりを続けている。インターネットがない時代には情報発信に不安を感じたが、作品を通じて和紙の魅力を根気強く訴えてきた。
支えになったのは地元の存在だ。梼原町で盛んだった原料の栽培を再生しようと集落の人とミツマタやコウゾを育てている。隣人らは2006年に開業した民宿を兼ねた工房「かみこや」の工事を手伝ったり、野菜を持ってきてくれたりする。「見守ってくれた地元の協力がなかったら何もできない。梼原はオランダ、いの町に次ぐ第3の故郷です」
今後は、美術品や文化財などの修復に使われる和紙作りを目指すという。(菅沢百恵)