国際的に貴重な自然の保護・活用を目指す「エコパーク」に登録された静岡市北部の南アルプスで、登山客向けの宿泊施設を運営する会社が、施設から出たごみの焼却灰などを繰り返し山中に投棄していたことがわかった。会社は朝日新聞の取材に「灰はずっと以前から捨て、5、6年前から生ごみも一緒に穴に入れていた。(現場の)作業員の判断だった」などと説明。ごみを回収し、処分する方針だとしている。静岡市は、廃棄物処理法違反の疑いがあるとみて調査を始めた。
生ごみ放置、清流の山中に異臭 記者が目撃した投棄現場
静岡市によると、許可を得ていない場所でのごみ投棄は同法で禁じられ、肥料にするなどの目的がない限り、私有地でも違法となる。焼却灰も廃棄物にあたり、知事や市長の許可を得た業者に運搬や処分を委託する必要がある。市は25日に現地調査を実施。廃棄物対策課の担当者は「灰や生ごみを確認した。今後、会社に聞き取って対応を検討する」としている。
投棄現場はJR静岡駅の北約50キロの同市葵区田代の大井川沿いの山中で、東証1部上場の製紙会社「特種東海製紙」(本店・静岡県島田市)の所有地。約1キロ西側に、市が宿泊棟など一部を所有し、同社の関連会社「特種東海フォレスト」(同)が運営する「椹島(さわらじま)ロッヂ」(定員180人)があり、ロッヂの従業員が投棄をしていた。
フォレスト社によると、従業員は直径2~3メートル、深さ1メートルほどの穴に、ロッヂや、静岡県や静岡市が所有し、同社が管理する山小屋から出たごみの焼却灰を捨てていた。また、約5年前からは登山客が増える時期に生ごみの処理が追いつかなくなり、焼却せずに穴に入れていたという。
フォレスト社の仲田勝利事業開発部長は「生ごみは燃えにくいという思いから、作業員の判断でそうしたのではないか。違法だという認識はなかったと思う」と説明。「穴にある生ごみは回収して焼却するなどし、灰も山から下ろして処分の仕方を検討する」と話した。
静岡、山梨、長野3県にまたがる南アルプスは、ユネスコ(国連教育科学文化機関)によって自然の保護と活用を推進する「エコパーク」に指定されており、椹島ロッヂは静岡県側からの登山客や山岳救助隊の拠点。昨年は延べ4千~5千泊の利用があったという。南アルプスで同県や静岡市が建物を所有する山小屋や避難小屋は椹島ロッヂを入れて14軒。同社はこのうち10軒を管理し、県や市から委託料を受け取っている。(堀之内健史、宮廻潤子、矢吹孝文)
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〈エコパーク〉 ユネスコが1976年に創設した。自然保護が目的の世界自然遺産に対し、エコパークは生態系の保全とともに「持続可能な利活用」「自然と人間の共生」に重点を置き、日本では志賀高原や白山など9地域が登録されている。14年に登録された南アルプスは約3千平方キロが対象で、貴重な動植物が生息する「核心地域」、環境教育などに利用される「緩衝地域」、エコツーリズムなどが行われる「移行地域」に分かれている。椹島ロッヂ周辺やごみの投棄場所は移行地域に含まれる。