東日本大震災後、福島の人たちとの交流をきっかけに再び音楽活動に力を入れ始めたミュージシャンがいる。フォークの聖地として知られる福岡・天神のライブハウス「照和(しょうわ)」で1970年代に活躍した金尾よしろうさん(63)=東京都。きっかけはメジャーで活躍したころになかった「必要とされる実感」だという。
7月14日、金尾さんは震災後に知人の紹介で歌いに来るようになった福島県須賀川市のライブハウス「ぷかぷか」にいた。ひときわ盛り上がったのは自作の「風の中に立て」だ。
三年たったら
戻って来いよと
遠くで手を振った
あいつはもういない
実家があった福岡県直方市で99年に亡くなった父を思って作った歌。ライブでは「支援」をにおわせず、震災の話もしない。「ぷかぷか」を運営する青津欽一さん(66)は「そんな金尾さんが受け入れられている」。地元のミュージシャンが金尾さんの曲をカバーしたり、お客さんも歌ってくれたりしているという。
金尾さんは、長渕剛さんや、陣内孝則さんがボーカルの「ザ・ロッカーズ」らと同時期に照和で歌った。80年に上京。大手レコード会社に所属してアルバムも発表したが、90年ごろに2社目のレコード会社との契約が切れたのを機に、アマチュアの世界に戻った。
仕事をしながら首都圏でライブ活動を続けた。10月には、自らがパーソナリティーを務める「かわさきFM」の音楽番組も放送から10年に。生演奏で好きな音楽を発信し続けた。
ただ、気がかりが二つあった。一つは、アルバムを作らなくなったこと。レコード会社に所属していたころ、売り上げのプレッシャーと常に向き合ってきた記憶から避けていた。
福島の反応に接して心境が変わった。「こんなに聞いてくれる人がいるのなら」と、最後のアルバムから26年たった2014年に新譜「full bodied」を作った。
もう一つの気がかりは、福岡と疎遠になったこと。新譜を作った後、福島での活動を知った地元の知人から言われるようになった。「『(福)島』ばかりでなく『(福)岡』にも帰ってこんね」。売れなかったことで感じていた体面の悪さも薄らいでいった。
福島とともに、今は地元の福岡のためにどんなことができるのかを考えているという金尾さん。「メジャーもマイナーも関係なく、音楽家として自分にできることをしていきたい。今はこれまでにない楽しみや喜びを感じながら活動しています」
◇
金尾さんは11月、福岡県内3カ所でライブを行う。日程は次の通り。
17日午後7時 Music Amusement Bar FUNKY DOG(久留米市、0942・35・0780)▽18日午後7時半 博多BuRaRi(福岡市、092・725・7121)▽20日午後7時 THE BAR(直方市、0949・23・0009)(小田健司)