走ることに情熱を燃やす高齢者が増えている。フルマラソン100回完走を目指す人が集まるグループの平均年齢は65歳。70代以上の3割弱が「ランニング・ジョギングを普段している」との調査もある。高齢者は、なぜ、何を求めて走るのか。
名古屋市の名城公園で10月下旬、小さな手作りのマラソン大会が開かれた。約40人の参加者が1周約3キロを、時間や距離に関係なく思い思いに走る。
87回を数えた「金のしゃちほこマラソン」。世話人を務める愛知県長久手市の河合邦純さん(70)が「誰でも走れる大会を」と呼びかけて14年前に始まった。
フルマラソンの完走が830回を超す河合さん。「頭が真っ白になり、スカッとする感覚が忘れられない」と40歳ごろからマラソンにはまった。これまでに33の国・地域で開かれた大会で完走、世界7大陸制覇も達成した。
ここまで続けられたのは、「仲間と楽しみながら走っているから」。走り終わった後のおしゃべりや、各地の大会の思い出話や情報交換など、「周囲から刺激を受けることが次へのモチベーションになる」。50カ国、900回の完走という目標を描いている。
マラソンで夫婦の絆を深める人もいる。同県犬山市の馬場竹生さん(91)は、昨年の米・ホノルルマラソンで日本人最高齢の完走者。60歳ごろからランニングを始め、今も早朝に近くの公園で約1時間練習する。
10回を数えたホノルルを始め、米ボストンやパリなど海外の大会参加は17回に上る。耳が遠くなって不自由のため、海外遠征には妻のキクゑさん(86)が毎回付き添っている。
「会場の雰囲気を味わうのが楽しい」(竹生さん)、「色んなところに行けて、こっちも元気になった」(キクゑさん)と笑う2人。二人三脚で95歳でのホノルル参加を目指す。
誰かのために走る喜びを見いだす人も。名古屋市西区の横山茂光さん(70)は視覚障害者のランニングの伴走をしている。
50回以上のフルマラソンの経験があり、ボランティアで初心者にランニングの指導もしている横山さん。50代の頃、体力と走力の衰えを感じ、タイムにこだわるのをやめた。自分の経験を人の役に立てたいと思い、視覚障害者マラソンの会「なごや楽走会」で伴走者をするようになった。「障害者に合わせて楽しく走れる。いいエネルギーをもらっています」
高齢者が走る理由とやめた理由
宿泊予約サイトを運営する「ゆこゆこホールディングス」(東京)が2015年に実施した「シニアのランニング・ジョギングに関する調査」によると、約1700人の50代以上の会員のうち、ランニング・ジョギングを普段しているのは、60代で約22%、70代以上で約27%に上る。走る理由は約半数が「健康維持」を挙げた一方、やめた理由を聞くと「仲間がいなくなったから」が60代で最も多く、70代以上も3番目に多かった。同社は「走ることが周囲とのコミュニケーションのきっかけになっている」と分析する。
仲間づくりのために30年以上にわたって活動を続ける「フル百回楽走会」は、全国のフルマラソン100回完走を目指す人たちの集まりだ。会員215人の平均年齢は65歳。60歳以上が7割を占める。事務局長の吉野孝敏さん(76)=神奈川県平塚市=は「マラソンは年齢にかかわらず、お互いの話題になる趣味。まさに共通言語だ」と話す。(中野龍三)