朝日新聞奈良版で長期連載された「天皇陵古墳を歩く」が書籍化され、朝日選書(朝日新聞出版)から刊行された。奈良県立橿原(かしはら)考古学研究所(橿考研)で調査課長などを歴任し、現在関西大学非常勤講師の今尾文昭(いまおふみあき)さん(63)が、主に奈良県内の天皇陵古墳について丁寧に語りかけるスタイルで解説する。世界遺産の候補になった大阪府の百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群の考察なども追加し、天皇陵古墳の基礎知識から最前線の研究まで幅広く理解できる内容だ。
連載は2016年4月~18年3月、朝日新聞奈良版に計79回掲載された。奈良県内に点在する40基余りの天皇陵古墳を一つずつ紹介し、今尾さんの専門の考古学のほか、文献史学など多角的な視点から天皇陵の実像に迫ってきた。
今尾さんは同志社大学文学部を卒業後、78年に橿考研に入所。16年3月に定年退職するまで県内各地の発掘調査に携わり、付属博物館でも学芸員を務めてきた。その一方で、宮内庁が一般の立ち入りを禁じる陵墓の公開運動にも取り組み、08年から考古学や歴史学の学会の代表者が宮内庁の許可を得たうえで陵墓・陵墓参考地に立ち入って観察することも続けてきた。
選書では、序章として「天皇陵古墳を歩くこと」を新たに追加。第1章の奈良盆地東南部の「山辺(やまのべ)・磯城(しき)古墳群」から始まり、奈良盆地北部の「佐紀(さき)古墳群」「佐保(さほ)・春日ほか」、奈良盆地北西部の「生駒・斑鳩(いかるが)」「馬見(うまみ)古墳群」、「飛鳥ほか」まで県内の天皇陵古墳を地域ごとに説明する。最終章として連載にはなかった「百舌鳥・古市古墳群」を付け加えた。各古墳の説明には最新の研究成果に基づいたデータが盛り込まれたほか、今尾さんが立ち入り観察した成果も随所に採り入れられているのが特徴だ。
一方、研究者として天皇陵古墳の名称にこだわる姿勢も明確に打ち出している。陵墓と古墳は異質のものとして、宮内庁が管理する陵墓には考古学や歴史学の成果は反映していないなどの理由から、堺市の仁徳天皇陵を「大山古墳」など地名や地元の呼称に基づいた古墳名で呼ぶことも提唱している。
今尾さんは「天皇陵古墳の一つ一つがたどってきた歴史を知ったうえで、これからどうあるべきかについても考えてもらえれば」と話す。
「天皇陵古墳を歩く」は税別1700円。問い合わせは朝日新聞出版(03・5540・7793)へ。(編集委員・今井邦彦)