マンガは読みやすいと思われているけど、本当? 大学の研究者やマンガ家らがこんな疑問から、マンガに触れる機会が少ない知的障害者や外国人らが楽しく読めるマンガを研究し、本にまとめた。表現方法が違う様々なマンガを知的障害者40人に読んでもらった結果、浮かび上がった「読みやすいマンガ」とは――。
「障害のある人たちに向けた LLマンガへの招待 はたして『マンガはわかりやすい』のか」を出したのは、大和大(大阪府吹田市)保健医療学部の藤澤和子教授、京都精華大(京都市)マンガ学部の吉村和真教授、都留泰作教授らで作る「LLマンガ研究会」。LLとはスウェーデン語で「やさしく読める」の略語だ。
スウェーデンでは知的障害がある人や外国人に読みやすい工夫がされた「LLブック」の出版が盛んだ。特別支援教育などが専門の藤澤教授は日本でも普及させようと活動しており、LLブックのマンガ版を作れないかと、マンガを専門とする吉村教授、都留教授らと研究会を立ち上げた。
研究会代表の吉村教授によると、マンガは誰でも読めるものと思われがちだが、コマをどの順番で読むのかといった決まりや、感情などを線や擬態語で伝えるなどのマンガ独特の表現があり、読むには「マンガリテラシー」が必要だ。マンガに接する機会が少ない外国人や知的障害者には読むのが難しいケースがあるにもかかわらず、吉村教授は「多くの人は自然にリテラシーを身につけているので、読めない人の存在に気付かない」と説明する。
研究会では、どういう表現ならリテラシーが少なくても理解しやすいかを議論した。コマ割りやせりふなどを変えた数種類のマンガを作って40人の知的障害者に読んでもらい、一人ずつ聞き取り調査して理解の壁になった点を把握した。
そこから「単純なコマ割りを心がけ、一つのコマに多くの出来事を盛り込まない」「困惑や焦りを表現する顔の縦線といった、マンガ特有の記号表現を控える」「それぞれの吹き出しがどのキャラクターから発せられているか明確にし、ナレーションの使用は避ける」などのガイドラインを作った。同じストーリーで難易度を変えた複数のマンガを作っておけば、よりマンガを楽しめる可能性が広がるとも指摘。ガイドを踏まえ、難易度を変えて描き分けたマンガも掲載した。
吉村教授は「障害がある人が読みやすいマンガづくりを考えることは、健常者の視点の見つめ直し、ひいては共生社会づくりにつながる。マンガとは何か、新たなマンガ表現とは何かなど、研究を通して様々なことが見えてきた」と話す。B5判180ページ。樹村房刊。2200円(税別)。問い合わせは同社(03・3868・7321)へ。(前田智)