ラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会の開幕まであと300日余り。会場の一つ、愛知県豊田市では、豊田スタジアムを中心に各所で準備が進む。これまでに計上した市の予算は関連事業を含めて74億円。幻に終わった「サッカーW杯開催地」で見た夢をラグビーでかなえるため、今、前へ前へと突き進む。
名鉄豊田市駅の周辺。「一生に一度だ。」「熱くなれ 愛知・豊田。」といったW杯を宣伝する垂れ幕やポスターに交じり、「Free Wi―Fi(ワイファイ)」のステッカーが貼られている。
市は、駅と豊田スタジアムの間の1・4キロで、無料で無線LAN(Wi―Fi)が利用できるよう工事を進めている。外国人らW杯観戦客のために導入した。今月末に豊田スタジアムでの工事が終わり、来年3月には「ワイファイストリート」が誕生する。市企画課の担当者は「他にも香嵐渓など主な観光地でも利用できるので、地方都市としてはかなりの規模になる」と話す。
市はW杯に向け、開催地決定後の2015年度から予算を組んで準備を進めてきた。開催にかかる負担金と大会宣伝費以外にも、W杯を機に拡充・前倒しで取り組んでいる関連予算も計上した。多言語対応の案内看板や地図の作製、駅前広場整備など(道路は除く)で、総額は今年度までに73億8500万円に達する。
その半分以上を占めるのが豊田スタジアムだ。
2基目となる大型映像装置(縦8メートル、横16メートル)の設置のほか、スピーカーは206カ所に新設して現在の2倍にし、照明はLEDに入れ替え……。修理(塗装の塗り替え)を含めて、今年度だけで28億円になる。市スポーツ課は「過去最大規模のリニューアル。国際大会にふさわしい会場になる」と胸を張る。
予算を巡っては、「スタジアムでは老朽化対策も始まっており、遠からず財政の足を引っ張ることになる」(市議の一人)と危惧する声も出ている。だが議会では「経済効果がある」という声にかき消されて、表立って問題になっていない。
豊田市には、02年のサッカーW杯の開催候補地に挙げられたものの落選した「黒歴史」がある。市関係者によると、スタジアム建設構想時、「準決勝を含む3試合が開催される」といううわさが地元で流れたという。担当部長で用地買収の責任者だった杉山功さん(76)は「豊田市の知名度は、トヨタ自動車よりも低くて、悔しい思いをしていた。広く知ってもらえる機会を逃し、全員ショックでした」と振り返る。
スタジアムでは、このほか洋式トイレに保温便座、動画で情報を流せる電子掲示板(デジタルサイネージ)も設置するなど「おもてなし力」アップに余念がない。「新装」スタジアムは来年3月にはお披露目される予定だ。運営する豊田スタジアム・徳増年彦事業推進部長は「世界3大スポーツイベントが開催されることで、晴れてスタジアムの良さ、そして豊田市を世界中にアピールできる」と期待する。
ただ依然として、ラグビーの人気は盛り上がらず、不安視されている。例えば同スタジアムでの総入場者数はサッカーには及ばない=表参照。W杯が一過性のイベントで終わってしまう可能性も少なくない。太田稔彦市長は会見で「市民には浸透してきたと思っている。スタジアムなどインフラが後世に有効活用されるような取り組みはしていきたい」と話す。
今年度で準備は一段落となるが、市は来年9月の開幕まで、関連イベントの開催を含め、宣伝に力を入れる方針だ。(臼井昭仁)
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〈豊田スタジアム〉 2001年完成。公園を含む総事業費は451億円で収容人員は4万5千人。当初は同6万2300人の構想もあったが、02年サッカーW杯の開催候補地から漏れ、現行規模に。指定管理者の第三セクター・豊田スタジアムが運営している。昨年度、公園を含む維持・管理などにかかった支出は12億8千万円。一方、使用料など収入は2億3900万円。
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〈ラグビーワールドカップ〉 4年に1度開かれ、9回目の2019年日本大会には日本を含む20チームが出場する。9月20日~11月2日、国内12の会場で計48試合がある。豊田スタジアムでは9月23日、28日、10月5日(日本代表戦)、12日に予選の4試合がある。
豊田スタジアム 歴代入場者数ベスト3
①J1 名古屋×鹿島
4万3579人(2018年8月)
②国際親善試合 名古屋×アーセナル
4万2919人(2013年7月)
③W杯予選日本代表×ウズベキスタン
4万2720人(2012年2月)
※いずれもサッカー。ラグビーの最高記録はトップリーグ・トヨタ自動車×サントリー(2018年9月)の3万1332人
コンサートの入場者数(概算、過去5年間)
・B′Z
10万8千人(2018年9月、3日間)
・SKE48
7万人(2015年8月、2日間)
・サザンオールスターズ
7万7千人(2013年9月、2日間)
※愛知県豊田市スポーツ課調べ