現代美術の分野で平和に貢献した作家に贈られる「ヒロシマ賞」の受賞が決まったチリ出身の現代美術作家アルフレド・ジャーさん(62)は、社会問題をテーマにしたインスタレーション(空間芸術)作品を中心に世界に問い続けてきた。広島の原爆がモチーフの作品もある。こうした主題を扱う背景には、青年期を軍事独裁政権下で過ごした経験が影響している。
被爆者は今、核兵器と人類の関係は…核といのちを考える
受賞決定後、朝日新聞の単独取材に応じた。
被爆50年の1995年、広島市現代美術館からの依頼で制作した作品タイトルは作家・大江健三郎の著書名を引用した「われらの狂気を生き延びる道を教えよ」。8月6日の灯籠(とうろう)流しの写真を使い、少女がバイオリンを奏でる映像などを組み合わせた。核兵器がなくならない現代。「そんな『狂気』の時代でも、新しい世代から希望を教わることができると伝えたかった」と語る。
制作にあたって、関連本を大量に読み込んだ。特に心を引かれたのが栗原貞子の原爆詩「生ましめんかな」。被爆して重傷を負った産婆が、赤ん坊を取り上げて死ぬという内容だ。
2013年、この詩の表題を、東日本大震災で被災した宮城県石巻市の中学校に残された黒板に投影する作品を発表した。栗原が「脱原発」を訴えていたことも着想の背景にある。
震災直後、石巻を訪れた際に崩れた校舎の壁に掛かっていた黒板を見つけ、譲り受けた。「黒板には子どもたちがより良い世界を夢見て考えた膨大な時間が込められている」と感じた。「恐怖のただ中にあっても新しい命を生み出さなければならないという栗原の思いを込めた」
チリの軍事独裁政権下(197…