中小企業を経営する人らが、親と離れて児童養護施設で暮らす子どもたちと交流し、時には職業体験の場を提供している。親戚でも先生でもない「知り合いのおっちゃん・おばちゃん」として、よりどころの少ない子どもの育ちを支えている。
「最近、本読んでる?」 3~18歳の約30人が暮らす大阪府内の児童養護施設。兵庫県尼崎市で電気工事会社を営む松本晃幸(てるゆき)さん(50)が尋ねると、女子中学生(14)は「料理の本なら。抹茶チーズケーキを作ってみたい」と答えた。
月1回、大阪府中小企業家同友会の会員が、子どもたちに会いにやってくる。この日はクリーニング業や金型彫刻所の経営者ら10人ほど。勉強や趣味、好きな人の話といった近況に2時間弱、耳を傾けた。
女子中学生は以前、学校が苦手だと松本さんらに打ち明けた。「自分が間違っていなければ堂々としとき。勉強はある程度、あとは好きなことしたらいい」と励まされ、元気が出た。「大人は厳しいイメージがあるけど、ここに来てくれる人は話しやすい」。会員のつてで、カフェで職業体験し、パティシエになるという夢に一歩踏み出した。
交流は2年前に始まった。松本さんが仕事で別の施設を訪れ、子どもたちの境遇に触れたのが発端だ。数人の相部屋で寝起きし、学校の教員や施設職員以外の大人と接する機会はほとんどない。原則18歳で、施設を出なければならない。
松本さんは、祖父母に育てられた自身の子ども時代を思い出した。両親は仕事で忙しく、父親からは殴られることもあった。甘えられず、屈折した。
20歳を過ぎてトライアスロンの選手に出会い、憧れて競技に打ち込んだ。好きなことを見つけたら、人の意見に流されなくなった。「慈善活動は柄じゃないと距離を置いていたが、人との出会いがあれば人生が変わる。その可能性が誰にでもあると伝えたい」
施設側は子どもの変化を感じて…