「北陸の小京都」と呼ばれる福井県大野市の歳末を彩る深紅の伝統野菜がある。峠を越えた福井市味見河内(あじみこうち)町(河内)の特産で、今では珍しい焼き畑農法で育てられた「河内カブラ」だ。正月の縁起物として欠かせない存在だが、農家の後継者難が続き、その農作業の往年の記憶を記録に残す試みが続いている。
片道13キロの峠越え
河内で赤カブ作りを手がける宮本利子さん(89)と長男の博志(ひろし)さん(65)方に11月初旬、「福井焼き畑の会」の約10人が集まった。会では1991年から焼き畑体験会を開き、地元と交流を続けている。
赤カブは大野市の風物「七間(しちけん)朝市」へ売りに出される。軽トラックが普及する60年代初頭まで、人が赤カブを背負って峠道を越えていた。「背板」と呼ばれる枠に、時に重量50キロを超す赤カブを荷崩れしないよう縄だけでくくり付ける。その技を知るのは利子さん一人になった。
「晴れ舞台や」。焼き畑に関わ…