東京・銀座の路地裏。シルクハットをかぶり、片眼鏡(かためがね)でギロリとにらんだ男の看板が暗闇に浮かぶ。扉を開け、薄暗い階段を下りると地下空間が広がる。バー「銀座・ルパン」。多くの文士らに愛され、昭和の薫りが色濃く残る老舗が3日に開店90年を迎えた。
「ダザイ(太宰治)が座った席はどこですか」
香港で日本文学を学んでいるという女性が日本語で尋ねる。「あちらです」。バーテンダーが示したのはL字形に曲がったカウンターの奥。太宰のほか織田作之助、坂口安吾の無頼派作家の写真も飾られている。どれも、名カメラマンの故林忠彦がレンズを通して素顔に迫った写真だ。
店を経営している高崎龍彦さん(77)によると、最近は「聖地巡礼」と称して海外からも文学好きの女性が訪ねてくる。日本近代文学の文豪たちがイケメンで出てくる漫画「文豪ストレイドッグス」(文スト)の影響が大きいという。
「太宰が座った席に座るため、外で待っている人もいます。カウンター席がすべて女性で埋まってしまうことも珍しくないのです」
高崎さんの母・雪子さんは昭和…