ネットがあれば、日本にいても世界で活躍する一流の技を学ぶことができる。スマホやタブレットの画面を通じて技を磨いた子どもたちが、世界に羽ばたいている。
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オセロ界でも2人の「ネットネイティブ」世代が席巻する。10月には横浜市の小学5年福地啓介君(11)が第42回世界オセロ選手権で最年少優勝記録を更新した。もう1人が、前年の世界オセロ選手権で準優勝した堺市の中学1年高橋晃大(あきひろ)君(13)だ。オセロを始めてわずか3年。「ネットがなかったら今の自分はなかったかもしれない」
オセロは「覚えるのは1分、極めるのは一生」と言われ、即座に数手先を読む計算力が必要だ。高橋君にとってオンラインゲームアプリ「オセロクエスト」が練習相手だ。世界中の人々と対戦でき、小学生のころは平日約1時間、対戦した。別のアプリを使って、自らの試合を振り返る。
アプリを使うきっかけは、父・重光さん(46)だった。「本人が望むなら、サポートするのが親の役目」。どうしたら実力を伸ばせるか。先輩「オセラー」らから情報を集め、アプリの活用に行き着いた。
ただ、見知らぬ人とのやりとりでトラブルに巻き込まれかねない。重光さんは事前に調べ、チャット機能がないアプリを選んだ。また高橋君にはスマホを持たせず、重光さんのスマホで練習させることにした。
高橋君はオセロクエストには「Super_Ace」という名前で参戦。約5万人中1位をとるまでに腕を磨いた。「10手先は読めるようになった」と自信をみせる。
将棋界に史上最年少でプロデビューし、様々な記録を更新している藤井聡太さん(16)はプロアマ問わず、見知らぬ人同士がネットで対局できるサイトで実力を急上昇させたといわれる。全国に7人いる「九段」の1人で、世界オセロ選手権で2度優勝経験がある末国誠さん(41)は「昔は大会などに出て研さんするしかなかったが、今はインターネットや強いオセロソフトウェアの普及で練習環境が格段によくなった」と話す。
子どもとネットの関係に詳しい角川アスキー総合研究所専務の福田正さんは、「ネットにつながれば、あらゆることを学べるようになった今、途上国の子どもたちもネットを駆使して貪欲に学んでいる」と指摘。「日本では子どもをネット環境に置くことに消極的な声が根強いが、ネットの悪い部分ばかりを強調していると、こうした伸びる子をつぶすことにならないか」と懸念する。(有近隆史)
ネットで技量を磨くのはスポーツも同じだ。
12月2日に京都府向日市で開かれた、自転車競技の「BMXフリースタイル」全国大会。神奈川県の小学3年、神保虎之介君(8)は、自転車に乗ったまま後ろ向きに1回転する「バックフリップ」や、自転車ごとジャンプしながら両足を後ろに上げる「スーパーマン」など数々の技を決め、7~9歳部門で準優勝した。2018年シーズン総合成績では同部門で優勝した。
虎之介君がBMXを始めたのは4歳。競技経験者の父、亮介さん(47)や中学1年の兄、俊介さん(13)から直接教わるだけでなく、YouTube(ユーチューブ)も頼りにする。有名選手の演技をコマ送りしながら何度も繰り返し見て、体の動きをつぶさに観察した。得意技は、自転車でジャンプしながら片足を反対側の足の前に出す「キャンキャン」。世界的に有名なケビン・ペラザ選手の動画を見て習得した。
亮介さんは「国内の競技人口は少ないが、ネットには世界中の選手の演技が多数アップされている。最近の動画は精度が高く、コマ送りすると、すごく細く動きがわかるので勉強になる」と話す。
母親の美幸さん(42)が虎之介君と俊介さんの演技や練習光景の動画をアップしているインスタグラム(@jbros_bmx)は国内外のフォロワーが4万9千人。虎之介君のシーズン優勝を報告すると、「Congrats」など英語でも祝福メッセージが次々と書き込まれた。また、インスタを見た海外のメーカーから、自転車や手袋などの提供の申し出を受けた。11月にはインスタが縁で米国の7歳の男の子が来日し、一緒にBMXを楽しんだ。美幸さんは「インスタのおかげで、息子たちの世界が大きく広がっています」と語る。
「プロのライラー(ライダー)」。
虎之介君はBMXを始めたばかりのころ、幼稚園の短冊に、将来の夢をこう書いた。BMXが2020年の東京五輪から公式種目に入ると決まったいま、夢がもうひとつ増えた。「オリンピックに出たい!」(大岩ゆり)