奈良市の春日大社や東大寺の東にそびえる若草山(標高342メートル)で、幻想的な雲海の景色が広がった。日の出前からカメラを抱えた人たちが県内外から集まり、雲海とシカの共演を夢中で写真に収めていた。
若草山は、晴れれば奈良市街地から生駒山地や橿原方面まで奈良盆地を一望できる景勝地。この日も山頂は晴れていたが、眼下は見渡す限り層状の雲が広がっていた。隣の御蓋山(みかさやま)が島のように浮かび、周囲の尾根が雲に見え隠れする光景。21日午前7時ごろに日の出を迎えると、光を浴びた雲がたなびき、多彩な表情を見せた。
山頂付近に集まった人たちは「天空みたいや」などと口にしながら、シャッターチャンスを狙い続けた。立派な角のシカが姿を現すと、人だかりができ、撮影会さながらの様子だった。
SNSに投稿した若草山の雲海の写真が話題になったカメラマン、北川力三さん(46)=三重県名張市=は「この雲の量はすごい。下に街があるなんて信じられない。角のあるシカも撮れたし、こんな日は他にないでしょうね」。
奈良地方気象台によると、20日の雨の影響で湿った空気が、夜間の放射冷却現象で冷やされて濃い霧が発生。奈良市は21日午前1時から午前10時過ぎまで霧に覆われたほか、県内全域で濃霧注意報が出ていた。(加治隼人)