時紀行
メタセコイアはずっとながめていたくなる木だ。その森があると聞いて、大阪市立大理学部付属植物園を訪ねた。約95万年前に日本から消滅した巨木だ。その後も激しい気候変動のもと、森の姿は変わっていく。時を超えた光景をたどってみた。
連載「時紀行」バックナンバー
(時紀行:時の余話)「植物化石」魅せられた研究者たち
水草が浮かぶ池のまわりに、30メートルを超す背の高い木が並ぶ。美しい円錐(えんすい)の形をした、メタセコイアだ。葉の間をすりぬけた優しい光が、水面で輝く。
「太古の風景です」
大阪府交野市の大阪市立大理学部付属植物園。山田敏弘園長(43)にそう言われると、絶滅したゾウがこちらに向かって歩いてくる気がした。
後に大阪市立大教授となる故・三木茂さんが、それまでセコイアやヌマスギと考えられてきた植物の化石を新種と見抜き、「メタセコイア」と名付けて発表したのが1941年。
その5年後、約95万年前に日本から消滅したメタセコイアが中国に生き残っていた、との論文が発表された。驚いた米カリフォルニア大の故ラルフ・チェイニー教授は中国に渡り、種を持ち帰った。
政情が不安定だった中国のメタセコイアを心配したチェイニー教授は「気候が似ている日本で保存できないか」と呼びかけた。三木さんらが応じ、50年、米国から100本の苗が届いた。全国の大学などへ送られ、うち1本ができたばかりの植物園に植えられた。
挿し木で増やし、いま50本ほどに増えた。巨木に育ったメタセコイアが、「95万年以前」と同じ景色を見せてくれる。
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