スポーツの現場で、体罰や暴力の根絶に向けた取り組みが続く中、「言葉の指導」のあり方も問われている。岩手県で7月、バレーボール部員だった県立高校3年の男子生徒(当時17)が自ら命を絶った。遺族側は顧問の暴言が男子生徒を追い込んだと主張。県教育委員会は第三者委員会の人選を進めており、早期に初会合を開いて自殺との因果関係を調べる方針を示している。
男子生徒は、新谷翼さん。父の聡さん(51)は「翼が生きていたこと、翼に何が起こったかを知ってもらいたかった」と名前を公表した理由を説明した。
中学、高校で全国選抜チームの合宿に参加した経験があり、約197センチの長身をいかして活躍していた。しかし7月3日朝、自室で亡くなっている翼さんを家族が見つけた。
葬儀後、机の引き出しから自筆の遺書が出てきて、「恩を仇(あだ)で返してしまいごめんなさい」などと家族への謝罪のほか、バレーボールが「一番の苦痛」で、「ミスをしたら一番怒られ、必要ないと、使えないと言われた」と記されていた。
単身赴任中だった聡さんが、翼さんと最後に顔を合わせたのは7月1日夜。社会人チームとの試合後、一家で食卓を囲んだ。翼さんは仲間と1セット奪えたことをうれしそうに話していた。「宝物のような存在で、いまだに実感がわかない。長期合宿にでも行っているんだろうなと……」
遺族側は、県教委が部活の生徒や顧問だった男性教諭(41)らから聞き取った調査結果から、「言葉の暴力」があり、自殺につながったと訴えている。
調査によると、翼さんは男性教諭から、「バカ」「アホ」、「背は一番でかいのに、プレーは一番下手だな」などと言われたといい、男性教諭はおおむね発言を認めている。「そんなんだから、いつまでも小学生だ」という発言も、「すぐ忘れてしまうというニュアンスで発言したかもしれない」としている。ただ、殴ったり蹴ったりはしていないとして指導の行き過ぎを否定し、「3年生になり、高いレベルにいってほしいという思いはあった」「翼さんだけをターゲットにして怒ったこともない」と答えている。
自殺から5カ月以上になるが、第三者委はまだ開かれていない。
聡さんは「男性教諭が暴言を吐いていたことは明らか。それ自体許されないことなのに、『指導の一環』という言葉でひっくるめて容認しているのではないか」と述べ、学校と県教委の対応に不信感を示す。(加茂謙吾)
■「言葉の暴力」処…