89歳の「発明家」夫婦が長崎市にいる。妻は自分にあった「補聴器」を、睡眠不足の夫は「安眠装置」を作り、長崎県発明協会のコンテストで入賞。おかげで、夫婦げんかが減ったという。
松本幸子(さちこ)さんと晃さん。晃さんは旧制中学3年のころ、学徒動員で潜水艦の建設で使う工具の修理をしたことから機械に興味を持った。テレビ局の技術者になってからも趣味で発明を続け、これまで50以上の賞を受賞したという。
幸子さんは晃さんの表彰式についていくうち、引き込まれた。日常生活でちょっとした不便さを感じると晃さんに相談し、30年ほど前から晃さんの助けを借りながら「発明」をしている。
県発明協会が主催する今年度の「県発明くふう展」で、幸子さんの「対話補聴器」が最優秀賞を受賞。送信機がついたマイクを相手の胸元にクリップでとめ、音声が無線で自分のイヤホンに届く仕組みだ。
きっかけは半年前。晃さんとの会話が聞こえにくくなった。普通の補聴器をつけたが、水道管を流れる水や外を走るバイクの音がやけにうるさく聞こえた。相手の声だけがよく届く補聴器の「開発」に乗り出した。
晃さんは「安眠装置」で優良賞を受け、21日に長崎県大村市であった表彰式に、2人で参加した。
趣味の発明に熱中するあまり、深夜に眠りに就くことも多く、医師から「普通の生活を」と助言された晃さん。安眠装置は左右二つのスピーカーから雨音などの効果音と静かなメロディーがそれぞれ流れ、眠気を誘う。尿漏れを検知するセンサーもついている。最近は睡眠時間が増え、「気持ちが落ち着いて夫婦げんかが減りました」と話す。
一方、幸子さんが作った補聴器は、2人のコミュニケーションを円滑にした。「私も言いたいことがちゃんと言えるようになったからね。本当に怒ったら、聞こえないふりするけど」
来年、そろって90歳になる2人。「こがんとがあったらいいね、っていうものを、まだまだ作っていきたい」。そう口をそろえた。(横山輝)