国内外に残された大量の気象観測データを読み解いた著作「帝国日本の気象観測ネットワークⅥ 台湾総督府」(農林統計出版)が発売された。日本人による観測網の拡大や観測技術の強化が台湾で果たした役割など、ユニークな視点から歴史を学ぶこともできる。
著者は山本晴彦・山口大学教授(61)。電子化以前の雨量記録を収集・分析し、防災に生かす研究で知られる。昨年7月に発生した西日本豪雨の文部科学省研究班の代表も務める。
旧日本領などに目を向けたのは20年前。旧満州にあたる中国東北部で洪水調査をした際、現地の担当者から「中国建国以降のデータは使うが、侵略の歴史の中で観測された値は使わない」と言われたことだった。
洪水研究は長期の雨量記録を使うほど正確さが増す。「科学と侵略は関係ないはず」と感じた一方、日本語で残された記録を活用できる形にまとめる責任は日本人にあるとも考えた。
国内外に残る記録を収集し、2014年から書籍として刊行。満州や樺太、南洋庁に続く6冊目として、昨年11月に台湾編を出版した。
台湾での観測は1895年、下関条約により総督府が設置された日から始まった。半世紀の統治で測候所は25カ所に増えていく。こうした観測網の充実がインドシナ半島やフィリピン、南洋への航空網の中継拠点となった台湾の発展に重要な役割を果たす。第2次世界大戦後は日本人技術者が現地に残り、観測技術を引き継いだ。今も使われている測候所もあるという。
台風の進路予測や、3千人以上が犠牲になった地震の調査記録も含め、図表や写真も多数収録した。
強力な台風など、台湾がさらされている気象条件は温暖化によって北上し、今後、日本にもたらされるとも危惧される。真っ先に影響を受ける九州は、台湾とは面積や地形が似ている。
山本さんは「日本が集めた記録は温暖化や台風の予測のうえでも貴重。後世に活用してもらえるようこれからも集めていきたい」と話す。
A5判508ページ、税込み5400円。(竹野内崇宏)