江戸時代の妖怪物語の舞台、広島県三次市で、妖怪絵巻物など5千点を集めた博物館が4月にオープンする。市は観光振興の起爆剤として期待するが、12億円を超える建設費に対して年間収益はわずか。新たなハコモノを抱える格好の市民には、不安や疑問の声も根強い。
プレイベントに妖怪ファン殺到
昨年10月下旬、三次市内でプレオープンイベントが開かれ、絵巻物など展示予定の一部約80点が紹介された。9日間で県内外から妖怪ファンら約2700人が訪れた。
「湯本豪一記念 日本妖怪博物館(三次もののけミュージアム)」は2階建て(床面積約1700平方メートル)で、江戸時代から伝わる三次を舞台にした妖怪物語「稲生物怪録(いのうもののけろく)」の絵巻物をはじめ、妖怪たちが列をなして闇の中を歩く様子を描いた「百鬼夜行絵巻」、壁一面に広がる「日本妖怪大図鑑」など約5千点を展示する予定だ。
展示品の大半は2016年12月に、妖怪研究家の湯本豪一(こういち)さん(68)=東京都江戸川区=から寄贈されたものだ。
さっそく、市中心部から少し離れた市文化会館跡地を候補地に定め、17年11月に着工。昨年夏にオープンする予定だったが、大雪の影響で工事は難航し、大幅にずれ込んだ。建設の計画を進める市政策部の中村好宏部長(54)は「ようやく開館できる。住民の方々にも愛されるような場所にしていきたい」と胸をなでおろす。
市民からも歓迎の声が上がる。市中心部で菓子店を経営する雨田佳子さん(71)は「インパクトのある施設になれば遠くからも三次に人が集まると思う。楽しみです」と話す。
集客力に不安の声も
一方で、多額の建設費用や集客力を不安視する声も多い。
市は年間の入館者数を6万人と試算する。しかし、約12億6500万円の建設費用に対して、年間の予想収益はわずか約290万円だ。さらに昨年7月の西日本豪雨で、JR芸備線が広島市側との間で不通になったまま。今秋にならないと運転は再開されない見通しで、客足への影響もありそうだ。
17年9月には、博物館建設を「寝耳に水の話」として反対する市民らが、市民の意見を聴くよう求める陳情書と約6800筆の署名を市議会に提出した。
署名活動に参加した須恵康子さん(58)は、博物館予定地の前で喫茶店を営む。しかしその表情は浮かない。「子どもたちが笑顔で遊べる広場とか、お年寄りが集まれる広々とした場所にしてほしかった」と話す。署名活動を中心となって広めた同市畠敷町の女性(73)も「ハコモノは建設費のほか、管理費や人件費もかかるし、街の将来が不安」と心配顔で話す。(大滝哲彰)