東日本大震災で被災したピアノの修復活動をしていた宮城県石巻市の楽器店の男性経営者(89)が、預かったピアノを無断で石巻市立病院に引き渡したとして依頼者から告訴され、石巻署に業務上横領の疑いで書類送検されたことがわかった。
男性は取材に、無断で渡したと認めたうえで、「より良い音が出るピアノの方がいいと考えた。がれき同然だったので所有権は誰にもない」と話している。
男性によると、米国の人気歌手シンディ・ローパーさんが震災翌年の2012年に石巻市を支援で訪れた際、男性の修復活動に共感して「市民に寄贈してほしい」とピアノ1台の購入を申し出た。
16年に再建された市立病院に問題のピアノが贈られた際、男性は「市内の家庭で使われていたピアノ」と説明。シンディさんの寄贈の経緯は病院にパネル展示され、朝日新聞なども取り上げた。だが実際には、学校で被災したピアノの保存活動をしている岩手県宮古市の団体が、13年に石巻市立雄勝中の音楽室から回収したピアノだった。
男性によると、シンディさんが買ったのはアップライト型だったが、病院事務局がグランドピアノ型を望んだため、預かっていた別のピアノを修復して引き渡したという。病院側もこの要請を認めている。
団体によると、他の学校のピアノを含め4台を男性の店に預け、3台は引き取ったが、雄勝中の1台は男性から「壊した」と説明を受けた。不審に思い、病院に寄贈されたピアノの製造番号を調べたところ一致したため、女性代表(51)が17年5月に告訴していた。