旧優生保護法(1948~96年)により中絶と不妊の手術を強いられたとして、熊本県内の女性(72)が29日、国に3300万円の損害賠償を求めて熊本地裁に提訴した。弁護団によると、本人に障害はなかったという。静岡県内の女性も同日、静岡地裁に提訴した。30日にも大阪地裁に2人が提訴する予定で、原告は19人になる見通し。
訴状によると、女性は71年ごろに第2子を妊娠した際、医師から「異常があるかもしれない」と言われ、中絶と不妊の手術を勧められた。第1子の長女にダウン症の疑いがあったという。実家があった地域では障害者のいる家庭がさげすまれるなどしており、手術を受けざるを得ない状況に追い込まれたとしている。
女性は弁護団を通じて発表したコメントで、第2子も産むつもりだったが断念せざるをえなかったと説明。「国の方針がなければ医師が手術を勧めることもなかったのではないかと思います。国に人生を返してもらいたい」と訴えた。
弁護団の松村尚美弁護士は「障害者は見苦しい、いない方がいいという思想が浸透してしまった社会の渦中に入って、育てられなかった。優生思想の犠牲者だと思う」と話した。(杉山歩)