漫画「逃げるは恥だが役に立つ」の作者・海野つなみさんへのインタビューも最終回。恋愛、結婚、就職、家事――。世の中の「こうあるべし」圧力はいまだ強い。皆が生きやすい社会をつくっていくことはできるんだろうか。そのためには何が大切なのだろうか。(大木理恵子)
【上】そして「逃げ恥」は生きづらさを発信し始めた
【中】「こうあらねば」捨てるのも手
どんどん変わればいいな
――先ごろ連載が再開された「逃げ恥」の最新話、拝読しました。物語が再び大きく動く予感がします
まだ読んでいない方のために詳細は差し控えますが、平匡・みくり夫婦の間にも、新たに家族に関するテーマが持ち上がってきます。物語も新しい段階に進んでゆくと思っていただければと。
――「逃げ恥」では、固定観念にとらわれない生き方が描かれます。ただ、その固定観念も、個々人が育ってきた環境などによって「作られた」ものですよね
そうですね。昔は、親がしてきたように生きることが当たり前とされていました。でも、今は別の世界が可視化されやすい時代です。都市にいても地方にいても、「こういう世界ってあるんだ」とわかるようになってきた。もっとどんどん変わっていけばいいなと思います。
――どうしたら変わるでしょうか
若い人が意見を言ったり、制度を整えたり、何かを決める立場になっていくといいな。年をとった偉い人がずっと上にいると、いくら下から要望やいいアイデアが出てきても、「自分たちが若いころはこうだった」とつぶされちゃう。そういう構造って、会社でも家族でも一族でも同じですよね。
「会社にいた」自慢が続く限り
――仕事と家庭の関係も、ですね
ちょっと上の世代までは「どれだけ会社にいたか、家庭を顧みなかったか」が自慢だったりしましたよね。家事や育児も、全部ちゃんとこなしていたら出世競争から置いていかれかねない社会です。この状況が続く限り、きれいごとを言っても変わらないと思います。
――家事分担をめぐる問題は、前作の「逃げ恥」でも描かれています
実際、経済成長を優先させるなら子どもは増えないし、子を自分の親に預けたりしないとうまくいかない。経済と分担、どちらを選ぶかの段階にきているのかも知れません。今の若い世代は、ゆっくりでいいから幸せになっていきたいと考える傾向が強いし、そのあたりが(上の世代と)必ずしもマッチングしていないのではないでしょうか。
――家事を厳密な分担制にしたとたん、平匡とみくりの関係がぎくしゃくするシーンもありました
夫婦のどちらが仕事が好きか、家にいるのが好きか、そういった基準で分担のあり方を考えるのもいいかも知れません。ただ、「片方が片方をサポートする」という意識は良くないかも。お互いが生活していく上での当事者なわけで、何があるかわからないんですから。車に例えると、一方がエンジンを止めて任せっぱなしにするのではなく、両方の車輪を常にアイドリング状態にしておくイメージがいいと思います。
■届いてないこと、よ…