ゴルフ場の利用者に課される「ゴルフ場利用税」を廃止する――。そんな法律を与野党の国会議員で構成される「超党派ゴルフ議員連盟」が今国会に提出しようとしている。なぜいまゴルファー優遇なのか。その背景を探っていくと、「ゴルフ好き」のあの大物議員も推進派に名を連ねていた。
「生活に直接響く消費税を上げて、娯楽の税金を廃止するのはおかしい」「庶民には増税、議員と高級官僚の遊びには税金を安くする。冗談じゃない」
議連が1月末に初めてゴルフ場利用税の廃止法案をまとめたことが報じられて以降、ツイッター上では批判の声が相次いでいる。
ゴルフ場利用税は、ゴルフ場の利用者が1日あたり1200円を上限に納める地方税。議連の法案では、これを2021年4月に廃止。自治体の税収は年約450億円減ってしまうが、当面の間、国が穴埋めする。財源は今年10月の消費増税で生じる「一般財源の余裕分」を充てるという。
一見、唐突な提案にも思えるが、ゴルフ関係者にとっては積年の懸案だった。推進派にしてみれば、ゴルフ場利用税は本来、30年前に廃止されるべきものだったからだ。
かつては「娯楽施設利用税」として、ゴルフ場のほか、パチンコ店やボウリング場といった娯楽施設の利用者にも幅広く税が課されていた。これらは1989年の消費税導入にあわせて軒並み廃止されたが、そのとき、唯一残されたのがゴルフ場利用税だった。
当時、ゴルフは「お金持ちの娯楽」との認識が一般的で、ゴルファーは「担税力(税を負担する能力)がある」というのが大きな理由の一つだった。
だが、バブル絶頂期の当時とは違い、最近のプレー料金は主要都市の平均で5350円(2016年、スポーツ庁調べ)。
「いいテニスコートなんかすぐ数万円になる。なんでゴルフだけだめなのか」(議連幹部)。そんな不満を背景に、議連は毎年、与党の税制調査会に廃止を要望してきた。しかし、そのたびに、税収減を懸念する地方の反発で先送りされ、悲願を果たせずにいた。
そんななか、ついに10月には3度目の消費増税がやってくる。消費税と利用税の「二重課税」はますます重くのしかかり、廃止論の説得力が増す。
来年の東京五輪も追い風になりうる。ゴルフは16年のリオ五輪で正式種目に採用されており、議連会長の衛藤征士郎・元衆院副議長は「開催国として恥ずべき税制だ」と主張。超党派議連の役員には、野田佳彦・前首相や中曽根弘文・元外相、下村博文・元文部科学相らも入っている。
しかし、ずっと大きな壁だった地方税収の穴埋めはどうするのか。議連があてにする消費税収も、全額を社会保障に充てることが法律で決まっている。今のところ、与野党ともに反対派も多くおり、法案成立は見通せていないのが実情だ。
それだけに、廃止論者たちがひそかに期待を寄せているのが、政権中枢の後押しだ。
「少なくともスポーツに税金かけているのは日本だけ。この問題は解決せにゃいかん」
今月8日の閣議後会見。利用税廃止の是非を問われると、麻生太郎財務相は、そう言って廃止に前向きな見解を示した。じつは、「ゴルフ好き」で知られる麻生氏は議連の名誉会長。利用税廃止が持論なのだ。
さらに、安倍晋三首相も大のゴルフ好きで有名だ。トランプ米大統領とのゴルフ外交を重ね、日本ゴルフ場事業協会(現日本ゴルフ場経営者協会)の理事長を務めたこともある。
今回の議連の法案への態度は不明だが、過去の国会答弁を調べると、首相も「(プレー料金のうち)ゴルフ場利用税の比率が高くなっているのは事実で、総務相ともよく相談をしながら検討したい」と発言していた。
議連は今回、国家公務員と利害関係者とのゴルフを解禁する国家公務員倫理法の改正案も国会に提出する構えだ。公務員が自分でプレー代を負担する場合に限り、利害関係者とのゴルフを認めるという。
そもそもこの禁止規定は、1990年代後半に旧大蔵官僚や旧厚生官僚が利害関係者から多額のゴルフ接待を受けていたことが問題になったことから「たとえ割り勘でも職務執行の公正さに疑問を持たれる」として導入されたものだった。昨年も「加計学園」の獣医学部新設をめぐり、加計孝太郎理事長と安倍首相がゴルフや会食を繰り返していたことが国会で追及の的となったばかりだ。
「ゴルフがだめで、テニスはいいのか、将棋はいいのか。公務員の倫理規程の中にゴルフが入っていて、いろんな議論がある。ゴルフをやっておられる方からはなくしてもらいたいという強い要請もある」
首相は昨年9月の自民党総裁選でそう反論していたが、「ゴルフ=不正の温床」といったイメージが完全に払拭されたとはいいがたい。ゴルフ場利用税の廃止のみならず、利害関係者とのゴルフ解禁までめざすことが「政治家の身勝手」と映り、世論の反発を招く恐れもある。(伊藤舞虹)