藤原帰一(国際政治学者)寄稿
日韓関係は国交樹立以来もっとも厳しい情勢を迎えた。まず、2018年10月、韓国最高裁は元徴用工による訴えを認め、新日鉄住金に損害賠償を命じた。1965年の日韓請求権協定で最終的に解決したとされた請求権に関する合意は個人の賠償請求権に及ばないという判断である。
翌月、韓国政府は慰安婦財団の解散を発表した。2015年に当時の朴槿恵(パククネ)政権が安倍政権と結んだ日韓慰安婦合意によって生存している被害者への支払いを行う財団であり、かつて村山政権の下で設立されたアジア女性基金が民間の募金に多くを頼ったのと異なり、日本政府の拠出によるものだった。この財団の解散により、日韓慰安婦合意は事実上破棄されたことになる。
事態はさらにエスカレートする。12月には海上自衛隊の哨戒機がレーダー照射を受けたと日本政府が発表し、照射は行っていないと主張する韓国国防省と対立した。最近では、韓国の国会議長文喜相(ムンヒサン)が慰安婦問題解決のために天皇陛下は謝罪すべきだと発言し、批判を受けた後も発言撤回を拒んだ。
どうしてこんなことになるのか。日本で広く行われる解釈は、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が左派のポピュリストであり、反日感情を煽(あお)ることで政権を支えているというものだ。確かに韓国政治における左派は、朝鮮半島における南北対話と並んで慰安婦問題を筆頭とする歴史問題を重視しており、文在寅大統領は金大中(キムデジュン)、盧武鉉(ノムヒョン)につながる左派に属している。だが、文在寅政権が煽ったから問題が生まれたというだけでは、なぜ韓国で反日感情が強いのかという問いが残される。
国際的には徴用工と慰安婦につ…