江戸時代に生まれた映像芸能をもり立てようと、「江戸写し絵」社中(座長・薩摩駒花太夫)が3月25日、東京・日本橋劇場で旗揚げ公演をする。可動式の木製幻灯機を駆使する江戸写し絵は、いわば日本のアニメの原点。欧米での評価は高い。
約200年前、オランダからマジックランタン(幻灯機)が輸入され、金属製から木製に改良。1803年のこととされている。染料で絵を描いたガラスを木枠にはめて「種板」を作る。幻灯機に差し込んで大型の和紙に写し出し、スライドさせることで映像を変える。幻灯機は抱えて持てる大きさ(長さ約35センチ、幅約15センチ、高さ約20センチ)で、数人がそれぞれ手に持って操り、活動的な映像を見せる。顔が入れ替わったり、武士が弓矢を射たり瞬間的な動作の変化の表現に優れる。
だが映画などの発達で昭和20年代には衰退したという。駒花太夫は約30年前、江戸からのカラー映像劇の存在を知った。復元のため試行錯誤を続け、苦労の末に1993年、駒花太夫が山形文雄の名で主宰する「劇団みんわ座」の公演で初披露。現在の東京西部などで活躍した写し絵師の足跡を継ぐ意味を込め三代目駒花太夫を名乗った。
国内外で上演を重ねてきたが、「このままでは伝統芸能として広まらない」と劇団と切り離しての活動を決心。旗揚げ公演では、落語家・林家正雀との共作「牡丹灯籠(ぼたんどうろう)」、新内仲三郎、新内多賀太夫の新内節で「日高川入相花王」などを上演する。社中5人が幻灯機を操る。駒花太夫は「光は使い方で映像をゆがめたり反転させたりできる。現代的な心象風景も描けるのです」と言う。
米シカゴ大のトム・ガニング教授(映画・メディア学)は「視覚と音、映像とパフォーマンスが一体となって歓喜と驚嘆をもたらす芸術形式……過去のイメージというだけでなく、未来を照らし出す極めて重要な新しい形式」とコメントしている。(米原範彦)
◇午後2、7時の2回。電話03・6657・1703