桜の開花を独自に観測している愛媛県南部の宇和島市は18日、市内でソメイヨシノが開花したと発表した。気象庁は18日夕までに全国でソメイヨシノの開花の観測を発表しておらず、市は非公式ながら、全国で最も早く咲いた「開花日本一」を宣言した。
季節の花
宇和島市はかつて、気象庁による桜の開花宣言が全国で最も早い地域の一つだったが、測候所の無人化で気象庁が市内で桜の観測をしなくなった2006年から、以前と同じ標本木と定義を使って気象庁OBが観測する、独自の「開花宣言」を出している。市などによると、他地域との「同着」を含め、非公式の「日本一」は今回で2015年以来6回目となった。
18日、市から観測の委嘱を受けた気象庁OBの五十嵐廉(きよし)さん(74)=宇和島市=や岡原文彰市長らが市中心部の丸山公園を訪れ、開花を宣言した。昨年より2日遅かったという。五十嵐さんによると、10日ほどで見頃になるという。
五十嵐さんは「2月に冷え込み、桜が熟睡できたようです。気温が上昇して、眠りから目覚めて一気に元気になった」とみている。「咲くのを待ち望んで市民の皆様は標本木に熱い視線を注いでくれる。熱意が伝わったのではないでしょうか」と取材に答えた。
五十嵐さんは宇和島市出身で、松山地方気象台の課長などを歴任した。桜の観測は宇和島や京都、松山など各地で経験してきた。「動植物の観察を通しても長期的な気象変化がわかるようになる。仕事であり、使命だった」と振り返る。
2005年春、高知県内の測候所所長を最後に定年を迎えた。故郷の宇和島市役所にあいさつに出向くと、「桜の観測をしませんか」と誘われた。何度も「開花日本一」を観測していた宇和島の測候所が無人化されることになって、次の春からは目視に頼る開花観測ができなくなる。
「植物を種から育てるのが好き」で、娘に「さくら」と名付けるほどだ。「淡いピンクの花を見ると、そよ風が吹くような気になって、人生を楽しくしてくれる」。市の依頼を引き受けた。翌年から、市の「独自観測」が始まった。
「桜の開花は日本人にとって季節の移り変わりを示す重要な意味がある」と五十嵐さん。「独自」といっても、かつて測候所が標本木としていた丸山公園のソメイヨシノをそのまま使い、花が5輪以上咲くという同じ定義で「開花」を宣言する。
なぜ宇和島は早咲きなのか。五十嵐さんは「宇和島の寒暖の差が影響しているのではないか。一定の低温の日が続いた後、気温が上がると早咲きにつながる」。同じく「日本一」が多い高知も似ているという。
本格的な観測は3月上旬からスタートし、毎日公園を訪れて標本木を確認する。今月14日に公園を訪れたときには「あと4日ぐらいかな」と話していた。
強風が吹いた翌日は「折れていないかな」と心配になって標本木を見に来る。落ち葉は桜の周りにはき集めて土にかえす。「人工の肥料はあげない。自然の循環を保って栄養になれば」
観測日記をつづるブログには、「今年も咲きましたね。おめでとうございます」など、桜前線の到来を待つ各地の人からメッセージが寄せられる。全国に散らばった宇和島出身者や、長く厳しい冬を過ごす北国の人たちとも交流が芽生えた。「記録に残して発信すると、遠い宇和島のことを思ってくれる。桜のありがたみを感じます」(佐藤英法)