入院中の小中学生に教師が出向いて授業をする姿を描いた漫画「マジスター 見崎先生の病院訪問授業」(小学館)が今春、出版された。原作は病院訪問教育の第一人者、山本純士(じゅんじ)さん(63)で、作画は名古屋市在住の漫画家棚園(たなぞの)正一さん(36)。棚園さんが漫画家としての「ステップアップ」と決意し、壁に直面しながらも、山本さんの協力を得てまとめた作品だ。
棚園さんは、不登校だった体験を描いた漫画「学校へ行けない僕と9人の先生」を2015年に出版。次は、病気やけがで学校に通えない子どもを描こうと調べていたところ、「病院訪問教育」を知った。愛知県では院内学級のない病院に小中学生が入院する場合、どこの病院であっても教師が派遣される。子どもの気持ちを中心に考えていた棚園さんにとって、「出前授業」を担当する教師や医師、看護師ら周囲の人の気持ちを書いた山本さんの小説「15メートルの通学路」を読んで気づかされることが多かった。
作品化を心に決めたが、どうしてもうまくいかない。頭で考えただけで、補えない部分が多すぎる。2016年冬に、知り合いを頼って山本さんに連絡をとり、原作を依頼した。山本さんは約40年、病院訪問教育に携わり、定年後も愛知県立大府特別支援学校に再任された現役教諭だ。
ともに共作は初めてだった。メールや長時間の電話でのやりとりは当たり前。山本さんの家で11時間話し続けた日もあった。「作品を手がける以上、対等。みっちりやりとりしました」と山本さんは振り返る。
作品には交通事故で足を切断した野球少年や脳腫瘍(しゅよう)を患う少女が登場する。深刻なテーマだけに、いかに多くの人たちに読んでもらえるか苦心した。
まず、主人公と相棒を設定し、…