7日投開票の福岡市議選の中央区選挙区(定数7)で、元女子マラソンのバルセロナ五輪代表、小鴨由水(こかもゆみ)さん(47)=無所属新顔=が立候補したが、惜しくも当選ラインに届かなかった。鮮烈なマラソンデビューで「シンデレラ」と呼ばれ、その後は苦難も味わった元アスリート。「この落選も、人生の一つかな」と目をうるませた。
7日夜、中央区の事務所。ポロシャツにランニングシューズ姿の小鴨さんは、高校生と中学生の息子とともに吉報を待った。だが、落選が決まり、支援者の市民ランナーらからはため息が漏れた。「よく頑張った」と拍手も起きた。
選挙戦はユニークだった。選挙カーを「先導車」に見立て、その後ろを毎日30~40キロ、ランニングしながら支援を訴えた。肩には、たすき。脚力と体力をいかして、団地や細い路地をくまなく回った。市民は「え? 小鴨さん本人?」と驚いた様子で握手を求めた。小鴨さんのランニング仲間の市民ランナー約30人も、日替わりで伴走して支えた。「1人マラソン、1人駅伝の状態ですよね。道端の人たちも選挙というより、走っている私を応援してくれる感じでした」と笑う。
兵庫県明石市出身。1992年、初マラソンの大阪国際女子マラソンでいきなり優勝した。2時間26分26秒は当時の日本最高記録。その年のバルセロナ五輪代表に選ばれ、一躍注目を浴びた。
だが五輪は29位。「仕事で走るのが嫌になった」と、半年後に突然、一線を退いた。
その後、福岡に移って、地元の百貨店、岩田屋の駅伝部に入ったが、そこは数年で廃部になった。
私生活では、パン職人の夫と結婚し、2児をもうけたが離婚。その2年後、子育てを手伝ってくれていた元夫は職場で急死した。
華々しい舞台から一転、廃部、離別、そして死別――。「波瀾(はらん)万丈でしょう? でもだからこそ、同じようにつらい思いをした人の気持ちが私にはわかる」
岩田屋を退社した後は、障害のある子どもや市民ランナーのためのランニングクラブを作り、走る楽しさを伝える活動を続けてきた。
「自身の経験を政治の場で生かしてはどうか」。昨年、ある福岡市議から誘われ、立候補を決意した。
獲得した票は4508で、定数7に対して8番目の得票だった。波瀾万丈な人生に、また一つの経験が刻まれた。「挑戦したことは無駄ではなかった。悔いもない」。でもそう言った後に、「もうちょっとのところで、皆さんの声を届けられなかったのが残念」と悔しさをにじませた。
今後は? 「どうしようか悩んでいるところです。生活もあるから、子どもを育てていかないといけないし」。一方で政治に再挑戦したい気持ちは「ないと言えばうそになる」とも語り、複雑な表情を浮かべた。「差が開いていたら私は走っていた方が良いのかなとも思ったんですが……。4千以上の票は重いですよね」
市民ランナーや障害のある子どもたちとともにランニング教室で走りながら、次の人生を考えていくつもりだ。(小野大輔、角詠之)